言わずと知れた、2007年度アカデミー作品賞・助演男優賞・監督賞・脚色賞の4冠を達成した作品。観てみると、強烈なボディ・ブローを食わされるような凄まじいインパクトで迫ってくる。原題“NO COUNTRY FOR OLD MEN”は直訳すると「老人たちに国はない」となるが、言うまでもなく「この星の住人は・・・・・」で一躍有名になったトミー・リー・ジョーンズ扮するベル保安官がその「老人」の象徴だ。彼は、自ら誇りに感じていた保安官という職務を全うする自信を喪失していく。もはや彼には守るべき国など存在しないのだ。そして、彼をそこまで追い込んでいくのが、見事アカデミー助演男優賞を受賞したハビエル・バルデムが扮する冷酷非情なことこの上ない殺人鬼アントン・シガーだ。ハビエル・バルデムには以前『海を飛ぶ夢』でお目に掛かっているが、そのときの穏やかなイメージが焼き付いているだけに、俳優という人種はこうまで違う人格を演じられるのかと、空恐ろしさすら覚えた。徹底してサウンドトラックを排除した、その静寂からくる比類のない緊迫感と恐怖感。そして、この作品をもって単なるクライム・サスペンスと見るか、あるいは深読みしてその裏側に深遠なテーマが存在するか、解釈が分かれるところだろう。意図してか偶然か、観る者に想像する余地を多分に提供する作品となっている。