評     価  

 
       
File No. 0776  
       
製作年 / 公開日   2007年 / 2008年07月05日  
       
製  作  国   アメリカ  
       
監      督   ウィリアム・フリードキン  
       
上 映 時 間   102分  
       
公開時コピー  
人間が人間でいられなくなる
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   アシュレイ・ジャッド [as アグネス・ホワイト]
マイケル・シャノン [as ピーター・エバンス]
リン・コリンズ [as RC]
ブライアン・F・オバーン [as ドクター・スウィート]
ハリー・コニック・Jr [as ジェリー・ゴス]
 
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あ ら す じ    かつて息子を失い心に深い痛手を負ったアグネスは、2年の刑期を経て仮釈放された元夫ジェリーの暴力から逃れるため、ひとりモーテル暮らしを送っていた。そんなアグネスはある日、仕事先のレストランバーのウェイトレス仲間RCから、ピーターという男性を紹介される。ジェリーとは正反対で紳士的なピーターに、どこか自分と共通する影を持つように感じたアグネスは、行く場所のないというピーターを部屋に一晩泊まらせることにした。
 その翌朝アグネスが目を覚ますと、シャワーから出てきたのはジェリーだった。彼はアグネスにもう一度やり直そうと持ちかけ、これを拒絶したアグネスに対して暴力をふるった。ジェリーが去った後も怯えるアグネスを慰めるため、ある理由で3年の間女性との関係を絶っていたピーターは、意を決してアグネスと一夜を共にする。そして、ピーターはアグネスに女性を遠ざけていた理由を説明する。「湾岸戦争の際に軍医から実験台としてある薬を注射され、強迫観念に取り憑かれて逃げ出した。軍は今もなお逃げ出した自分を追っている」と。アグネスは辛い告白をしてくれたピーターを受け入れ、彼と一緒に暮らしていくことを決意した。
 ところが、2人で暮らし始めた部屋の中に、目に見えないほどの小さな虫が増えていく。そして、虫はピーターの体内に侵入し、血液を餌にピーターに寄生し始めていた。その虫こそが、かつて軍が彼に実験として注射したものだ、とピーターは言う。部屋と体の中で増え続ける虫に、やがて2人の精神は徐々に崩壊し始めるのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    “BUG(バグ)”という単語を初めて知ったのは、「コンピュータのプログラムのバグ(=誤り)」だったが、その後、もともとコンピュータに小さな虫(=BUG)が入り込んで起きる誤作動が言葉の由来であることを知った。
 この作品を一言で言い表すとすれば、「妄想」あるいは「狂気」といった単語がふさわしいだろう。コンピュータを狂わせるバグが人体に入ったらどうなるのか?ここから先はネタバレとなってしまうが、実はバグは人体には入ってこない。入るのは人間の精神の中で、バグに精神を冒された人間がどうなっていくのか、それがこの作品の焦点だ。妄想はさらなる妄想を生み、人間を狂気へと駆り立てていく。行き着く先はもはや破滅以外にはあり得ないのだ。そんな、人が人でいられなくなる極限状態を巧みに作り上げているのがこの作品だ。
 ホラー映画ではないから、血を見るシーンがないわけではないが、流血シーンを描くこと自体が目的ではない。それはあくまで狂気に陥った人間の恐ろしさの一環でしかないのだ。さすが、あの『エクソシスト』のウィリアム・フリードキンの監督作品といいたいところだが、何の意味があるのか理解に苦しむ点もあった。たとえば、冒頭でアグネスの部屋にしつこくかかってくる電話は一体何だったのか、あるいは、ピーターが壊した火災報知器に記された「まだ知らないほうがいい」というメッセージにはどういう意味があるのか、いや、それ以前に誰が何の目的でそんな場所にメッセージを記したのか。どう考えても、それらの点がストーリーの展開上重要な意味を持つとは思えないだけに、正直思い切って割愛しても良かったように思えたのだが。