評     価  

 
       
File No. 0853  
       
製作年 / 公開日   2008年 / 2008年09月27日  
       
製  作  国   日  本 / オランダ / 香  港  
       
監      督   黒沢 清  
       
上 映 時 間   119分  
       
公開時コピー   ボクんち、不協和音。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   香川 照之 [as 佐々木竜平]
小泉 今日子 [as 佐々木恵]
小柳 友 [as 佐々木貴]
井之脇 海 [as 佐々木健二]
井川 遥 [as 金子先生]
津田 寛治 [as 黒須]
小島 一哉 [as 小林先生]
役所 広司 [as 泥棒]
 
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あ ら す じ    一流企業の総務課長を務める佐々木竜平は、会社の総務を中国に移転することをきっかけに、別の部署への異動か退職かを迫られてしまう。家族には内緒で退職した竜平は再就職の先を探すものの、一流企業の総務課長だったプライドが邪魔をして思うような仕事に就くことができない。そんなある日、竜平は学生時代の友人黒須に再会する。彼もまたリストラされたことを妻には言えないまま、新たな職にも就けずに半ば諦めムードに陥っていた。
 大学生の長男はバイトで家にいないことが多く、家に帰っても家族と会話することもないために、何を考えているのかわからない状態だった。そんな貴が珍しく母に頼み事をした。それは何と米軍の外人部隊へ参加するための親の同意書へのサインだった。竜平はそのことを知らされると、烈火のごとく猛反対するのだが・・・・・。
 次男で小学6年生の健二は、通学路にあるピアノ教室の美人の金子先生に憧れ、恵から渡された給食費を月謝に充てて、両親には内緒でピアノを習い始める。以前にピアノを習いたいと相談した際に、父竜平にピアノは駄目だと頭ごなしに拒絶されたためだった。けれども、給食費を払っていないことを担任の小林先生から知らされた恵に、ピアノを習っていることを話さざるを得なくなってしまう・・・・・。
 なぜかこのところ様子のおかしい夫・竜平、父親の反対も聞かずに米軍に志願して渡米してしまった長男・貴、父の猛反対にもかかわらず内緒でピアノを習い始めた次男・健二。そんなバラバラな家族をつなぎ止めていた恵だったが、ある日家に入った泥棒に言われるがまま、半ば自発的に泥棒と非日常的な一日を過ごすこととなる・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員特別賞を受賞した作品。ここに登場する佐々木家は、確かに不協和音に満ちてはいるものの、どこにでもあるような平均的な家族だと言っていい。そして、家族だからといって何でも包み隠さず話せるわけではなく、むしろ家族であるが故に、最も近しい間柄であるが故に、互いに打ち明けられない秘密のひとつやふたつは必ず存在するものだ。家族それぞれが秘密を抱え、やがて飽和状態に達した時に崩壊するのか否か。ありふれた題材であるために、観ていて親近感や共感を覚え、あるいは自分にも身に覚えがあったりする、そこがこの作品の肝であり面白さであると思う。
 香川照之と小泉今日子の芸達者が演じる夫婦がさすがに上手い。自らがリストラに遭いながらも正直に打ち明けられず、その分家に帰ると必要以上に虚勢を張って、せめて家庭内でだけでも権威を保とうとあくせくする、そんな典型的な小市民の竜平。すぐに家族に対して手を上げて力に訴えようとするのだけはがいかがなものかとは思うが。一方、主婦業のみならず人生に対しても倦怠感を感じながら、現状を変えようとまでは思わない恵。2人が異口同音につぶやく「やり直したい」という心の叫びの符合は、それが原題に生きる誰もが抱える欲求の最大公約数であることの表れだろう。
 ただ、役所広司が意外な役柄で登場してからは作品のテンポが急転してしまい、おかしな方向へ向かうのはちょっと残念。また、いくらピアノの天才とはいえ、次男の健二がドビュッシーの「月の光」をあそこまで完璧に弾きこなすことができるのだろうか。その演奏があまりに見事で、ついつい聞き入ってしまうだけに余計に疑問が湧いてきてしまう。また、竜平の友人である黒須一家にしろ、役所広司扮する強盗にしろ、死なせることでいとも簡単に片付けてしまうのには賛同しかねるが。