評     価  

 
       
File No. 0960  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2009年04月11日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   木村 祐一  
       
上 映 時 間   94分  
       
公開時コピー   お札は神か、紙切れか。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   倍賞 美津子 [as 佐田かげ子]
段田 安則 [as 戸浦文夫]
木村 祐一 [as 花村典兵衛]
村上 淳 [as 橋本喜代多]
板倉 俊之 [as 大津シンゴ]
青木 崇高 [as 中川哲也]
三浦 誠己 [as 小笠原憲三]
西方 凌 [as 島本みさ子]
宇梶 剛士 [as 倉田政実]
泉谷 しげる [as 池本豊次]
板尾 創路 [as 検察官]
遠藤 憲一 [as 裁判官]
 
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あ ら す じ    太平洋戦争の敗戦で物価が高騰し、誰もが日々の暮らしに汲々としていた中、戦後初の新千円札が発行された昭和25年。古くから続く和紙の産地であるとある小さな村で、村の有力者である庄屋の戸浦文夫の元に集まった、ブローカーの大津シンゴ、和紙職人の橋本喜代多、写真館を営む花村典兵衛の面々。彼らは発行されて間もなく、まだほとんど世間に出回っていない新千円札にに目を付け、大胆にもニセ札作りの相談をしていたのだった。
 知的障害を持つ中川哲也をを女でひとつで育ててきた佐田かげ子は、勤務先の小学校の図書館には本もなく、優秀な子供が進学を諦めて働かなければならない現状に心を痛めていた。ある日、そんなかげ子の元へ大津が訪れ、ニセ札作りに加わらないかと誘ってきた。教育者として犯罪には荷担できないと一端は断ったかげ子だったが、今度は戸浦が直々にかげ子を説得しにやってくる。戸浦が戦争中に日本軍が中国でニセ札を作った事実を引き合いに出して語る言葉に、かげ子はついにニセ札作りに加わることを決心した。
 作戦を統括する戸浦の元、製紙部門には喜代多、製版部門には典兵衛と大津の愛人で飲み屋の雇われママ島本みさ子、それに戸浦の陸軍時代の部下で印刷のプロフェッショナルの小笠原憲三が呼び寄せられ、残るかげ子と大津が原料や印刷機を購入するための資金調達部門に配された。それぞれの部門は苦労を重ねながらついに印刷機を購入するまでにこぎ着けたが、ここで計画に狂いが生じた。戸浦、小笠原と共に印刷機を調達に行く途中で、大津が突然猟銃を持ち出し、大金の入った鞄を持ち逃げしようとしたのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    キム兄こと木村祐一の長編初監督作品。結論を言うと、そこそこ面白くできてはいるが、私が論外の評価を付けた『大日本人』の某監督のように特に奇をてらうようなこともなく、極めてオーソドックスに作られているという印象を受けた。それは逆に、これという特徴も見られず、極めてフツーの無難な作品に落ち着いてしまっているという欠点の裏返しでもあると言えるのだろうが。
 作品を観て最も強く印象に残ったのは、やはり主役の倍賞美津子の存在感と演技達者さがズバ抜けているという点に尽きるだろう。特に裁判のシーンでの彼女のセリフには演技とは思えない真実の重みが感じられ、ただただ聞き入ってしまう。コピーの「お札は神か、紙切れか?」という問いかけに対し、彼女が身をもって体得した回答は「紙切れ」だった。金貨や銀貨ならまだしも、和紙に印刷と透かしが施されたモノに額面通りの価値があろうはずがない。なぜ単なる紙切れである紙幣があたかも価値を持つかのように利用されるかというと、その後ろ盾には国家という最大の権力による保証があるためだ。そして、国民を戦争に追いやったような国家は常に正しいわけではない。だったら、自分達が国家と同じように紙幣を作って何が悪い?という佐田かげ子の主張は、板尾創路扮する検察官の言葉通り詭弁ではあるのだが、戦後の困窮にあえぐ庶民にとっては間違いなく真理だったのだ。
 話を作品に戻すと、主役とは言え佐田かげ子と養子の哲也を描いた前半がいささか冗長すぎる気がして、眠気を誘うのがツラい。そして、そこまで時間をかけて描いた哲也だけにニセ札作りに深く関わるのだろうと思ったのだが、結局大した役割も果たさずに終わってしまうのは肩すかしを食わされた感がある。後半は俄然盛り上がってくるだけに、前半とのギャップは惜しまれる。