評     価  

 
       
File No. 0961  
       
製作年 / 公開日   2008年 / 2009年04月18日  
       
製  作  国   アメリカ  
       
監      督   ガス・ヴァン・サント  
       
上 映 時 間   128分  
       
公開時コピー   「ミルク」は、希望のはじまりだった。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   ショーン・ペン [as ハーヴィー・ミルク]
エミール・ハーシュ [as クリーヴ・ジョーンズ]
ジョシュ・ブローリン [as ダン・ホワイト]
ジェームズ・フランコ [as スコット・スミス]
ディエゴ・ルナ [as ジャック・リラ]
アリソン・ピル [as アン・クローネンバーグ]
ルーカス・グラビール [as ダニー・ニコレッタ]
ヴィクター・ガーバー [as モスコーニ市長]
 
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あ ら す じ    1972年のニューヨーク。保険の外交員ハーヴィー・ミルクは、自らの40歳の誕生日に出会った20歳年下の青年スコット・スミスと恋に落ちる。そしてサンフランシスコに移り住んだ2人は、自分達と同じ同性愛者が多く住むカストロ地区でカメラ店を始めた。社交的でユーモア溢れるミルクの周囲にはたちまち多くの人々が集まるようになり、やがて彼は“カストロ・ストリートの市長”という異名を取るようになった。
 自由な地サンフランシスコとはいえ、彼のような同性愛者にとっての風当たりは強く、ミルクはすべてのマイノリティの権利と平等を求めて市政執行委員への立候補を決意する。しかし、2度の立候補はいずれも落選となり、次に挑んだ州議会選でも三度目の苦杯を喫することになる。彼の念願が叶ったのは、選挙制度が小選挙区に変わった77年のことで、米国で初めての同性愛者を公言する政治家が誕生した瞬間だった。
 独自の政策で地域住民の信頼を得たミルクは、翌78年に最大の難問に直面する。それは、同性愛者の教師の解雇を認める提案6号住民投票であった。圧倒的に不利な状況の下、すべてのマイノリティの権利を制限しかねない提案6号の反対運動を展開した努力が実を結び、住民投票の結果劇的な秘訣を勝ち取ったミルクだったが、彼の行く手に暗雲を投げかける影があった。それは、同僚の市政執行委員ダン・ホワイトの存在だった。
 敬虔なクリスチャンのホワイトにとってミルクの存在は常にストレスの原因であり、提案6号の否決という華々しいミルクの勝利が決定的な要因となって、ホワイトは突然の辞意を表明した。直後にホワイトは辞意を撤回するも、モスコーニ市長から拒絶されてしまったホワイトは、もはや正常な判断力を失っていた。提案6号の否決から20日後の1978年11月27日、拳銃を用意したホワイトは市長執務室でモスコーニを射殺後、自らの執務室へ呼び出したミルクをも射殺してしまう。皮肉にも40歳の誕生日にスコットに対して「50歳までは生きられない」と語った言葉通りとなった、ハーヴィー・ミルクの48年の生涯は幕を閉じた。
 
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たぴおか的コメント    ショーン・ペンが、ゲイであることを公表し、ゲイをはじめとするあらゆるマイノリティのために活動した実在の人物ハーヴィー・ミルクの半生を演じて、見事アカデミー主演男優賞に輝いた作品。さぞかし劇場が混むだろうと覚悟して臨んだ初日・初回のシネマライズだったが、前回の『レポ』ほどでないにせよ、空席がやたらと目立ったのは気になった。ミルクが“ゲイ”だったことがその一因なのだろうか?確かに、野郎同士がブチュ〜とキスを交わすシーンはある意味衝撃的で、最初は私も目を背けたくなったというのが正直な感想だ。あそこまでやらなければオスカーが取れないならば、私はオスカー俳優になど絶対になりたくない(笑)。もっとも、男同士のキスシーンは至る所で頻繁に登場するからいつしか感覚が麻痺してしまい、気がついたら何も違和感や嫌悪感を感じなくなってはいたのだが。
 言わずもがななのだが、やはりショーン・ペンの上手さは特筆すべきで、その仕草や喋り方などどこからどう見ても立派なゲイだ(笑)。そして、『オール・ザ・キングスメン』でも感じたのだが、彼が熱弁をふるう際に人を惹き付けるカリスマ性は圧倒的で、もし彼が実際に政治家に立候補したならば、合衆国大統領当選をも容易く実現してしまいそうな気がする。そんなミルクのこと、最後はてっきりアンチ・ゲイという政治的な思想を掲げる確信犯によって殺されたのだと思いきや、単なる同僚の逆恨みだったというのはなんとも痛ましく、観ていてやり切れない思いがする。大望を成就するために凶弾に倒れたなら彼も本望だったろうが、「ジャンクフードの食べ過ぎで精神錯乱に陥った」などとぬかす輩に志し半ばで殺されたとあっては、ミルクも死ぬにも死にきれなかったに違いない。
 人々から惜しまれながらことごとく英雄が凶弾に散っていくアメリカという国。ハーヴィー・ミルクというひとりの活動家にとって、凶弾に倒れたことは悲劇であると同時に勲章でもあり、現在彼を英雄たらしめている最大の要因でもあるのではないだろうか。