評     価  

 
       
File No. 1001  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2009年06月06日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   大友 啓史  
       
上 映 時 間   134分  
       
公開時コピー   破壊者か? 救世主か?  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   大森 南朋 [as 鷲津政彦]
玉山 鉄二 [as 劉一華]
栗山 千明 [as 三島由香]
高良 健吾 [as 守山翔]
遠藤 憲一 [as 古谷隆史]
松田 龍平 [as 西野治]
嶋田 久作 [as 村田丈彦]
小市 慢太郎 [as 野中裕二]
中尾 彬 [as 飯島亮介]
柴田 恭兵 [as 芝野健夫]
 
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あ ら す じ    かつて瀕死の日本企業を次々と買い漁り、“ハゲタカ”との異名をとったファンド・マネージャーの鷲津政彦は、日本のマーケットに愛想を尽かして海外生活を送っていた。そんな彼の元に、かつては鷲津の盟友であり現在はアカマ自動車の企業再生に取り組む芝野健夫が日本から訪ねてくる。何者かがアカマの買収に動いているのではないかという危惧を抱いた芝野は、鷲津に助けを求めてきたのだ。そして間もなく、芝野の危惧は現実のものとなった。中国系の巨大ファンド、ブルー・ウォール・パートナーズが正式にアカマのTOBを発表したのだ。自らを“赤いハゲタカ”と称する代表者・劉一華は残留日本人孤児の三世で、日本そのものであるアカマ自動車を救いたいと強く訴えるのだった。
 ブルー・ウォールによるアカマのTOBを知り日本に戻った鷲津は、正式にアカマ社長・古谷隆史からホワイトナイト役を依頼され、これを受諾した。そして早速、ブルー・ウォールを上回る額での買い付けを発表した。ところが、これに応じるブルー・ウォールの資金力は鷲津の想像を遙かに超えており、買付額はあっという間に鷲津ファンドの限界を上回る金額までに跳ね上がってしまう。そして、鷲津は自分の直面している敵が、まともに闘っては到底歯が立たない相手であることを思い知る。それもそのはず、ブルー・ウォールは隠れ蓑で、そのバックには中国という国家そのものが控えており、その資金力は20兆円とも言われていたのだ。
 鷲津がホワイトナイトとして無力だと感じた古谷は、経営陣はそのまま存続させるというブルー・ウォールの条件に釣られてTOBに応じることを発表してしまう。しかし、彼らの本当の狙いはアカマの技術力の獲得と中国国内での雇用創出であり、劉の提示したアカマ再生案を実行する意志など皆無だった。劉も単なる傀儡に過ぎず、買収の真の意図は知らされていなかったのだ。
 このままではアカマが中国にいいように利用され、価値がなくなったとわかるとためらうことなく切り捨てられてしまう。そんな時、鷲津は配下の村田丈彦を中国へ飛ばせ、自らはドバイへと向かった。そこから得た収穫は、劉一華という残留日本人孤児三世はブルー・ウォールの代表者“赤いハゲタカ”とは別人であるという事実と、ドバイから取り付けた巨額の資金だった。果たして鷲津は、それらを武器にブルー・ウォールに対していかなる戦いを仕掛けるのであろうか・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    テレビドラマは全く観たことがなく、いきなり劇場作品でお目にかかった『ハゲタカ』だが、何ら予備知識がなくても全く支障なく観ることができた。ただ、TOB(公開買付)やホワイトナイトなど、経済用語が説明なく使われているために、それらの単語の意味を知らない方がむしろ作品を理解する上で支障を来すように思えた。
 余計なお世話かもしれないが、念のため単語の説明をしておくと・・・・・
【TOB】Take Over Bidの略であり、企業経営権の取得や買収を目的として株式等の買付を希望する者が、買付期間・買取株数・価格を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で買い集める制度のこと
【ホワイトナイト】White Knightとは買収される企業にとって友好的な第三者(企業)のことで、自社株を買収してもらうことでキャスティング・ボートを握ることができる

 巨大マネーがぶつかり合うM&Aを描いた作品に触れるのは初めての経験で、緊迫感あふれるスクリーンから目が離せない。玉山鉄二扮する劉一華は、かつて鷲津と同じ職場で働いていた時に鷲津の後塵を拝する立場だったという設定で、その劉が鷲津を上回る巨額の資金に物を言わせて優位に立ち、勝ち誇った態度で鷲津に対するのは、考えてみれば非常に滑稽だ。なぜなら、劉が優位に立ったのは自分の能力が優れていたからではなく、単に背後に巨額な資金があったためだから。劉が馬鹿でなければ、それくらいの簡単な理屈に気づかないわけはない。
 そんな劉は、実は金の持つ力知り、その大切さをもっとも痛切に感じていた人間なのかもしれない。彼が守山に報酬として渡そうとした大金を守山が拒否したとき、それを拾えと命じた劉の言葉は守山を見下すような高慢さや守山を蔑むような卑劣さのいずれからでもなく、どんな理由であれ金を粗末に扱った者に対する真摯な叱責しか私には感じられなかったからだ。そしてその劉があんな形で最期を迎え、惨めなまでの姿で金を拾う立場にまで転落するとは、なんという運命の皮肉だろうか。
 一方、ブルー・ウォールが正攻法では太刀打ちできない相手だと判断した鷲津は、自分の知力を総動員してこれに対抗した。その方法はパックマン・ディフェンスの変形とでも言うべきだろうか。敵は鷲津の意図を理解することができず、その意図に気づいたときにはすでに手遅れで、M&Aからの撤退を余儀なくされてしまった。無敵のアキレスにも弱点があったように、どんな緒強大な相手であっても急所を突けば倒すことができるのだ。これこそがマネーゲームに勝利する醍醐味と言えるのではないだろうか。とは言え、勝者の陰には必ず敗者がおり、敗者に金がもたらすものは悲劇以外の何物でもないから、決して後味が爽快な勝利とは言えない。そして、そのことを身に染みて知っている鷲津だからこそ、日本のマーケットに絶望を感じて一度は身を引いていたのだろう。