評     価  

 
       
File No. 1014  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2009年06月27日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   西川 美和  
       
上 映 時 間   127分  
       
公開時コピー   その嘘は、罪ですか。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   笑福亭 鶴瓶 [as 伊野治]
瑛太 [as 相馬啓介]
余 貴美子 [as 大竹朱美]
井川 遥 [as 鳥飼りつ子]
松重 豊 [as 刑事]
岩松 了 [as 刑事]
笹野 高史 [as 村長]
中村 勘三郎 [as 医師]
香川 照之 [as 斎門正芳]
八千草 薫 [as 鳥飼かづ子]
 
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あ ら す じ    東京の医大を卒業した相馬啓介は、とある山間の小さな村に研修医として赴任した。そこでは、伊野治という勤務医が看護師の大竹朱美と2人で孤軍奮闘、過疎化が進み高齢者たちが押し寄せる診療所を一手に切り盛りしていた。村の誰もが信頼を寄せる伊野の働きぶりに、相馬は本物の医療に触れたような感動を覚え、次第に伊野のような医師を目指すべきだと考え始める。
 ある日、先だって夫を亡くした未亡人の鳥飼かづ子が倒れる。彼女は、以前から胃の不調を感じてはいたが、一切の診療を拒否し続けていたのだ。しかも、彼女の三女鳥飼りつ子は東京で医師をしているのだが、娘にも相談はしていないという。伊野は娘には内緒にするという約束で、かづ子に診察を受けることを納得させた。胃カメラでかづ子の検査を行った結果、明らかな癌だった。しかし、癌だったことをうすうす察していたかづ子に対し、伊野は胃潰瘍だと偽って薬を処方した。
 かづ子の元に、三人の娘たちが集まってきた。もちろん、その中にはりつ子もいた。そして、りつ子はかづ子が服用したと思われる薬を見つけ、伊野の診療所を訪れて詳細を尋ねた。かづ子から娘には内緒にして欲しいと約束した伊野は、懸命にかづ子が単なる胃潰瘍であることを説明した。伊野の説明に納得したりつ子は、伊野を全面的に信頼してかづ子のことを一任した。しかし、そのことで逆に伊野は嘘を突き通すことができなくなり、りつ子に本物のかづ子の内視鏡写真を渡すと、そのまま姿を消してしまった。それは伊野にとって、今まで隠し通してきたもう一つの大きな嘘をも白日の下にさらすことになる決断だったのだ・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    2005年に『ゆれる』で数々の映画賞を総なめにした西川美和監督の最新作。主役は芸能生活37年にしてこれが映画初主演の笑福亭鶴瓶だ。実は、私は笑福亭鶴瓶という男がどうしても好きになれなくて、今まで彼が出演する作品から無意識に遠ざかっていた。『母べえ』や『奈緒子』など、その時は意識していなかったものの、今考えてみると劇場で観なかった理由はまさに鶴瓶にあったのだ。そうは言うものの、西川監督作品と鶴瓶を両天秤にかけると、やはりこれは見逃すわけにはいかない。そんなワケで、地元のシネコンに行くこととなった。
 この日は『群青 愛が沈んだ海の色』に続けて観ることとなったが、両者を比べてみるとその差は歴然だ。前作『ゆれる』にも共通して言えることだが、西川監督は「白と黒には塗り分けられない、灰色の部分」を浮き彫りにする手腕に長けている。それは瑛太分する相馬や松重豊分する刑事らの台詞に如実に表れている。そして、そもそも伊野の存在自体が実は灰色そのものであったという、二段組みの構成が実に見事だ。そして、伊野が語った言葉「最初は球を打ち返しただけだった。しかし、そうするとさらに球は次々と飛んできて、いつしか球を打ち返すことだけに没頭していた」が強く印象に残っている。当初の動機はともかくとして、気がついたら「先生」「先生」と患者から頼られるようになり、彼らを放り出して逃げるわけにはいかなくなった伊野は果たして善か悪か?換言すれば、法律を守りさえすれば善で法律違反はすべて悪なのか?もしも伊野が悪だとすれば、それは彼をそんな状況に追い込んだ現在の医療制度に問題はないのか?様々な疑問を投げかけてくる、興味深い作品だ。