評     価  

 
       
File No. 1023  
       
製作年 / 公開日   2007年 / 2009年06月27日  
       
製  作  国   アメリカ  
       
監      督   トム・マッカーシー  
       
上 映 時 間   104分  
       
公開時コピー  
扉を閉ざしたニューヨーク
移民の青年との出会いと“ジャンベ”の響きが
孤独な大学教授の心の扉を開く。
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   リチャード・ジェンキンス [as ウォルター・ヴェイル]
ヒアム・アッバス [as モーナ]
ハーズ・スレイマン [as タレク]
ダナイ・グリラ [as ゼイナブ]
 
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あ ら す じ    経済学教授のウォルター・ヴェイルは、子供が独り立ちし愛する妻を失って、以来目的もなしに孤独な生活を送っていた。大学での講義はわずか1コマ、講義の内容は20年間全く同じ、そんなウォルターは、ニューヨークで開催される学会で共著者に代わって発表を行うことになった。共著者といっても名ばかりで、ウォルターは実際には著作にほとんど携わっていなかったにもかかわらず。
 久しぶりにニューヨークのアパートを訪れたウォルターは、そこにシリア出身の青年タレクとセネガル出身の恋人ゼイナブがいることに驚く。事情を尋ねると彼らも騙されたようだったが、警察沙汰になると永住許可証を持たない2人は強制送還になる可能性があるため、荷物をまとめておとなしく部屋を出て行った。しかし、差し当たっての宿泊場所もない2人を不憫に思ったウォルターは、しばらくの間彼らを部屋に泊めることにした。
 バンドでジャンベを演奏していたタレクは、ある日何気なしにウォルターがジャンベを叩いているのを見て、彼にジャンベを教えることとなった。ジャンベを通じてやがてタレクとの間に友情を育んでいったウォルターは、閉ざしたままだった心を次第に開くようになり、再び生きる喜びを感じるようになっていく。しかし、そんな穏やかな毎日を覆す事件が起きた。タレクが地下鉄の改札で誤解から逮捕されてしまい、警察に不法滞在者であることを知られてしまった彼は、入国管理局の拘置所に収容されてしまったのだ。
 タレクを助けるために弁護士を雇ったウォルターは、毎日のように収容所へ面会に訪れるようになった。そんなある日、一人の見知らぬ女性がウォルターの部屋に訪ねてきた。彼女はタレクの母モーナで、数日間連絡が途絶えた息子を心配してやって来たのだった。彼女に事情を説明したウォルターは、部屋を辞してホテルに泊まろうとするモーナを引き留め、タレクが使っていた部屋を使うように強く勧めた。こうして、ウォルターはモーナと共にタレクを釈放させようと手を尽くすことになったのだが・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    封切り時はわずか4館からスタートしたものの、最終的には270館にまで上映が拡大し、6ヶ月に及ぶロングランを記録した作品。否が応でも期待せずにはいられずに劇場へ向かったが、もちろん佳作であることは間違いないとはいえ、今ひとつ物足りない気がしたのも事実。その理由を考えるに、おそらくは二足のわらじを履かせたような構成のためではないかと思われる。
 この作品の背景にはあの2001年に起きた9.11の同時多発テロがあり、9.11以降にアメリカの移民に対する政策が大きく変わったという事実がバックボーンとなっている。子供はすでに手を離れ、連れ合いも亡くして人生の意義を失ったリチャード・ジェンキンス扮する大学教授のウォルターが、ひょんなことから不法滞在の若い男女タレク、ゼイナブと知り合い、不法滞在がバレて逮捕・拘留されたタレクを助けるために・・・・・と、ここまではいい。ところが、タレクの母モーナが登場した途端、9.11や移民への迫害といったテーマはそっちのけでロマンスに転じるのはいかがなものだろうか。ウォルターが無私な気持ちでタレクを助けようとしていたのが、モーナの関心を得たいがためであるかのように受け取られかねない。事実、後半のウォルターは友人としてタレク本人を助けようとするよりも、モーナの息子だから助けようとしていたように私には感じられた。
 ウォルターとモーナのロマンス自体は、それだけで一つのドラマになり得るものであり、決して悪いとは言わない。ただ、そのために作品の前半と後半でテーマが大きく切り替わったような違和感を感じるのだ。なんだかけなすようなことばかりを書いてしまったが、良い作品であるがためにかえって欠点が目立ってしまった結果だと理解していただきたい。芸歴40年にして初の主役を演じた、日本で言えば笹野高史のような存在のチャード・ジェンキンスの年輪を重ねた演技は実に味わい深い。