評     価  

 
       
File No. 1057  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2009年09月12日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   中野 裕之  
       
上 映 時 間   131分  
       
公開時コピー   絶対、女を捨てない。
己を曲げない。
そして、どこまでも自由。
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   小栗 旬 [as 畠山直光/多襄丸]
柴本 幸 [as 阿古]
田中 圭 [as 桜丸]
やべ きょうすけ [as 道兼]
池内 博之 [as 畠山信綱]
本田 博太郎 [as 栗山秀隆]
松方 弘樹 [as 先代・多襄丸]
近藤 正臣 [as 景時]
萩原 健一 [as 足利義政]
 
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あ ら す じ    将軍足利義政が統治する室町時代末期。代々管領職を担ってきた名門・畠山家の長男信綱と次男直光、そして大納言家の娘阿古は幼い頃からの親しい仲だった。彼らは子供の頃、畠山家に進入して盗みを働いた少年を召し抱え、桜丸と名付けて友達同然に仲良く過ごし、やがて青年期を迎えた。
 胸の内にそれぞれの思いを秘めた4人の関係は、大納言が流行り病で亡くなったことをきっかけに転機を迎える。そのきっかけとなったのは、「阿古を娶り大納言家の財産を受け継いだ信綱・直光のいずれかを管領職に就かせる」という、将軍義政の言葉だった。すでにその時阿古と許嫁の間柄だった直光は、自分は阿古と一緒になれるだけでいい、家督も管領職も信綱が継げばいいと信綱を説き伏せる。しかしその信綱に桜丸が「直光が裏切ってすべてを自分の物にしようと考えている」と嘘を吹き込む。疑心暗鬼に駆られた信綱は力尽くで阿古を襲い手籠めにしてしまう。
 直光に信綱の行動を教えたのもまた桜丸だった。阿古を取り戻した直光は信綱を敵に回すこととなり、幼い頃よりの忠臣景時や桜丸ら数名の家来を連れて都を離れる。ところが道中で、何者かに景時らが斬殺され、桜丸も姿を消してしまう。阿古と2人だけになり森をさまよう直光の前に、さらなる難題が立ちはだかる。悪名高い大盗賊の多襄丸が現れ、阿古姫を奪おうとしたのだ。そして、武術の腕で直光を上回る多襄丸の一撃を受け、直光は意識を失ってしまう。
 意識を取り戻した直光は、縄で縛り付けられて身動きもできなかった。多襄丸はそんな彼の目の前で直光と別れて自分の女になるよう口説くのだが、あろうことか阿古は多襄丸の言葉を受け入れたばかりか、さらに直光に追い打ちをかけるような信じ難い言葉を口にした。阿古は多襄丸に直光を殺すよう要求したのだ。はなから直光を殺す気などなかった多襄丸はさすがにたじろぎ、その隙に阿古は逃げ出してしまう。そして、縄を解かれた直光は、背後から小太刀で多襄丸を一突きにするのだった。
 今際の際に多襄丸は直光に告げる。「多襄丸を殺した者が次の多襄丸を名乗る、こうして多襄丸の名は延々と受け継がれてきた。お前が次の多襄丸なるのだ」と。そして、多襄丸の証である浪切の剣を直光に託した多襄丸は息絶えた。こうして、すべてを捨てて多襄丸として生きることとなった直光は、盗賊の道兼らを部下に従え、自由で気ままな盗賊としての人生を歩き始める。しかし、そんな彼の耳に入ってきたのは、畠山家の長男・信綱の急死と、彼に代わって弟の直光が管領職に就くという噂だった。多襄丸はひとり都にある畠山の屋敷へと馬を走らせるのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    芥川龍之介の『藪の中』を原作に描かれたアクション時代劇。私は『藪の中』を読んだことはないが、原作といってもおそらくは基本的なキャラクター設定が流用された程度で、ストーリー自体はオリジナルではないだろうかと思う。1週間後には松竹から奇しくも同タイプの時代劇『カムイ外伝』が公開されるが、果たしていずれかが意図してぶつけたのかそれとも単なる偶然なのか。
 心配だった小栗旬の演技も思ったより違和感もなく、全体的には充分及第点をあげられる作品だ。そして脇を固める役者陣、特に松方弘樹やショーケンの貫禄と存在感は抜群で圧倒的ですらある。腕っ節は強いが狡猾な松方多襄丸、それに淫靡な雰囲気さえ漂わせる盲目のショーケン義政。長年にわたって積み重ねてきた経験からくる老獪さの如何ともし難い差が、2人と小栗旬を並べてみるとよくわかる。
 ひとつ難を挙げさせてもらうならば、桜丸を演じた田中圭のキャスティングだ。決して、直前に観た『キラー・ヴァージンロード』でしつこい警官役として出演していたイメージが残っているワケではなく、この作品での彼は単なる不平不満を露わにした駄々っ子にしか見えない。あれだけの謀反をしでかしたのだからもっと腹の据わった不貞不貞しさが欲しかったところなのだが、残念ながら彼の演技では表情だけは憎らしさを感じさせるものの、単なる虚勢にしか感じられなかった。むしろ、直光の兄・信綱を演じた池内博之に桜丸を演じさせた方が、遥かに適役だっただろうと私は確信ししている。