評 価
File No.
1070
製作年 / 公開日
2009年 / 2009年09月26日
製 作 国
日 本
監 督
是枝 裕和
上 映 時 間
116分
公開時コピー
私は「心」を持ってしまいました。
持ってはいけない「心」を持ってしまいました。
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最初に観たメディア
Theater
Television
Video
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キ ャ ス ト
ペ・ドゥナ
[as 空気人形]
ARATA
[as レンタルビデオ店の従業員・純一]
板尾 創路
[as ファミレス従業員・秀雄(空気人形の持ち主)]
高橋 昌也
[as 元高校国語教師・敬一]
余 貴美子
[as 受付嬢]
岩松 了
[as レンタルビデオ店の店長・鮫洲]
星野 真里
[as OL・美希]
奈良木 美羽
[as 小学生・萌]
丸山 智己
[as 萌の父親・真治]
柄本 佑
[as 浪人中の受験生・透]
寺島 進
[as 交番のおまわりさん・轟]
オダギリ ジョー
[as 人形師]
富司 純子
[as 未亡人]
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あ ら す じ
下町の古ぼけたアパートで暮らす
秀雄
は、昼間はファミレスで働き、帰宅すると性欲処理の代用品である
空気人形
の“のぞみ”と一緒に食事をし、一緒に風呂に入り、同じ布団で眠るという日常を送っていた。そして、ある雨上がりの朝。秀雄がいつものように仕事に出た後、のぞみは瞬きをしてゆっくりと立ち上がる。そして、窓際に立つと軒から落ちる滴に触れて「キ、レ、イ」と呟いた。空っぽの空気人形が、あろうことか心を持ち、自らの意志で動き始めたのだ。
のぞみは空気人形の着せ替え衣装の中からメイド服を選んで着ると、覚束ない足取りで町に出た。初めてアパートの外に出たのぞみにとって、見る物すべてが物珍しく映る。そして、のぞみは近所のレンタルビデオ店の自動ドアに誘われるように入ると、そこで働く
純一
に興味を持ち、偶然バイトを募集していたその店で働くことになった。ビデオ店で純一と触れ合ううちに、彼の心の中にどこか自分と同じ「空っぽ」を感じながらも、のぞみは次第に純一に惹かれていくのだった。
ある日、のぞみは返却されたビデオを棚に戻していた時、バランスを失って脚立から落ちてしまい、その際に釘に引っかけて腕が裂けてしまう。傷口から勢いよく空気が吹き出し、みるみるうちにのぞみの体はしぼんでいく。驚いた純一にのぞみは「見ないで」と懇願するが、純一はその言葉が聞こえないかのように、店内のセロテープで腕の傷口を塞ぎ、のぞみのお腹の栓から空気を吹き込んだ。体が元に戻ったのぞみを純一は、「もう大丈夫だから」と抱きしめる。のぞみもそれに応えるように純一を強く抱き、「もう少しこのままで」と今までに感じたことのない幸福感にひたるのだった。
秀雄の元に、新しい空気人形がやってきた。新しい空気人形の誕生日祝いをする秀雄に、のぞみは詰め寄った。初めてのぞみが「心」を持ち動けることを知った秀雄は、戸惑いながらも言った。「お願いだから元の人形に戻ってくれないか?面倒なんだ」。この言葉に傷ついたのぞみは、ついに秀雄の元を離れる決心をし、家を飛び出したのだが・・・・・。
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たぴおか的コメント
ちょっと大人のファンタジーで、空気人形とはラブ・ドール、平たく言えばダッチワイフだからR15+指定となったのだろう。空気人形の“のぞみ”を演じた主演のペ・ドゥナは初めて見る女優だ・・・・・と思ったら、既に『グエムル 漢江の怪物』でお目にかかっていたらしいが、全く記憶に残っていない(キャスト欄にはしっかりと名前を書いているにもかかわらず)。日本の映画『リンダ リンダ リンダ』でも主演していたようで、結構日本でも知られている韓流女優らしい。
それにしても、切ないと言えばあまりに切なすぎるこのお話。空気人形ののぞみは、自分の周囲に自分と同じ「空っぽ」の人間が少なくないことを知るが、それはとりもなおさず誰もが心のどこかに空虚な部分、つまりは満たされない部分を持っているということだろう。ただ、のぞみとその周囲の人間たちの決定的な違いは、人間の空虚さは空気を吹き込んでも決して満たされることがないのだ。そのことを知らなかったために、のぞみは大切な物を失ってしまう。そして、最後に彼女が採った選択はあまりに悲しい。望んだわけではないのに「心」を持ってしまい、望んでも「心」を捨てられず、ああいう形でしか終われないのぞみの苦しみは察するに余るが、それでもなお彼女は「心」を持ったことを後悔していないのだろう。彼女が最後に見た、自分の誕生日を皆が祝ってくれるという幻想が悲しさをかき立てる。
ただ、ひとつどうしても理解できないのが、純一がのぞみに「空気を抜かせて」と頼んだこと。一体何の目的であんなことを言ったのか?のぞみの空気を抜いては吹き込むの繰り返しは、文字通り彼女を「オモチャ」にしているとしか思えない。さらに、次のシーンでは急転直下驚くべき状況に変わっている。その間に一体何があったのか?結局、のぞみにとって純一はかけがえのない存在だったにもかかわらず、純一にとってのぞみは単なる愛玩の対象、つまりは人形の域を出なかったということなのだろうか?だとすれば、純一もまた生身の女性に接するのが面倒(というのは私には口実にしか思えず、本当は接してくれる相手がいないだけだと思う)だなどと言いラブ・ドールにのめり込んでいる秀雄と同レベルの人間だったということだ。その辺りをもう少し推敲を重ねたならば、おそらくは星を10個つけてもいい作品になったであろうと思われるだけに残念だ。