評     価  

 
       
File No. 1096  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2009年10月24日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   若松 節朗  
       
上 映 時 間   202分  
       
公開時コピー   魂が、震える。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   渡辺 謙 [as 恩地元]
三浦 友和 [as 行天四郎]
松雪 泰子 [as 三井美樹]
鈴木 京香 [as 恩地りつ子]
石坂 浩二 [as 国見正之]
香川 照之 [as 八木和夫]
木村 多江 [as 鈴木夏子]
清水 美沙 [as 小山田修子]
鶴田 真由 [as 布施晴美]
柏原 崇 [as 恩地克己]
戸田 恵梨香 [as 恩地純子]
大杉 漣 [as 和光雅継]
西村 雅彦 [as 八馬忠次]
柴 俊夫 [as 堂本信介]
風間 トオル [as 沢泉徹]
山田 辰夫 [as 古溝安男]
菅田 俊 [as 志方達郎]
神山 繁 [as 桧山衛]
草笛 光子 [as 恩地将江]
小野 武彦 [as 道塚一郎]
矢島 健一 [as 青山竹太郎]
品川 徹 [as 龍崎一清]
田中 健 [as 井之山啓輔]
松下 奈緒 [as 樋口恭子]
宇津井 健 [as 阪口清一郎]
小林 稔侍 [as 竹丸鉄二郎]
加藤 剛 [as 利根川泰司]
 
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あ ら す じ    1960年代初頭。委員長の恩地元と副委員長の行天四郎が率いる労働組合は、会社に対して賃上げの要求を勝ち取った。しかし、この時を境に恩地と行天は別の道を歩き始める。あくまで社員の労働条件向上を目指す恩地は報復人事でパキスタンのカラチでの僻地勤務を言い渡され、以後は海外の僻地を転々と異動させられることになる。一方の行天は会社側に寝返り、後に社長となる堂本信介八馬忠次に取り入ることで出世街道をひた走るのだった。
 1990年代半ば。恩地が十余年の僻地勤務を経て日本への帰国が叶った矢先、国民航空の123便が御巣鷹山に墜落し、乗客・スタッフの520名が死亡するという大惨事が勃発する。被害者への対応に当たった恩地は、会社の利益を優先させる対応方針に反して、あくまで相手の立場に立って真摯な態度で遺族に接したことで、さらに上層部との溝を深めてしまう。恩地にとって常に逆風だった風向きが一転することになる。国民航空の再建を図るべく、時の内閣総理大臣利根川泰司の強い要請により、関西紡績での実績を買われた国見正之が、新たな指導者として会長の職に就く。そして、国見は着任早々に恩地の組合活動における統率力と実績に目を付け、新設された会長室の室長に恩地を抜擢するのだった。
 国見の右腕となった恩地は、国見の大英断による社内改革を進めていくが、そのことに不満を持つ役員も少なくなく、常務にまで昇りつめていた行天もそのひとりだった。ところが、そんな折りにかつて恩地と共に僻地勤務にあたり、現在は国民航空の監査役の職にあった和光雅継が、ドルの為替予約とニューヨークのホテル買収に際して不正が行われていた旨の監査報告を国見に提出した。国見の命を受けた恩地はニューヨークへ飛び、ホテル買収に要した費用が実際の買収価格に9億円も上乗せして報告されていたことを突き止める。一方、為替予約に関する調査は、いち早く動きを察知した利根川総理と副総理の竹丸鉄二郎によって揉み消されたのみならず、国見の更迭を招く結果となってしまう・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    いや〜長い長い、上映時間はなんと3時間22分!私が去年までに観た3時間超えの作品といえば、『ベン・ハー(240分)』『美しき諍い女(237分)』『タイタニック(189分)』の3本しかないのに、今年は『愛のむきだし(237分)』に続いてこの作品と2本も200分超えの大作に遭遇することになるとは、劇場でチケットに印刷された202という数字を見るまでは夢にも思っていなかった。
 作品の内容は日本航空123便の御巣鷹山墜落事故がモチーフとなっており、そのために映画化が不可能とまでいわれていた曰く付きの作品。2000年には大映と東映の共同で、2006年には角川映画の製作で映画化が発表されたにもかかわらず、いずれも実現には至っていない。また、現在フジテレビで放映されている開局50周年記念ドラマ『不毛地帯』も、企画段階では『沈まぬ太陽』が候補に挙がっていながら立ち消えになったらしい。
 その理由の一つは、もちろんモチーフとなった日本航空の強い反発にある。日航ジャンボ機墜落事故を描いた作品といえば昨年上映された『クライマーズ・ハイ』が記憶に新しい。『クライマーズ・ハイ』の場合は、あくまで事故を取材した新聞社がメインで描かれていたために、映画化に当たって特に支障はなかったようだ。ところが、『沈まぬ太陽』の場合はいくら社名を変えようともそれが日航であることは明々白々であり、しかもその内部構造は腐敗し切っているとあれば、日航の強い抵抗に遭ったことも頷ける。だったらなぜ『沈まぬ太陽』が連載されていた週刊新潮を機内雑誌販売から排除しただけで、小説の出版自体に異を唱えなかったのかは理解に苦しむのだが。
 初日舞台挨拶の際、主演の渡辺謙が号泣したと報じられたが、その気持ちも無理ないと納得できるほど、想像を絶するほどの労力が費やされたであろう超大作だ。半官半民という体制の下、国家という巨大な資金におんぶにだっこでさしたる苦労もなく漫然と運営されてきた企業の内部の腐敗ぶりは目を覆いたくなるほど醜悪だ。おそらく、その腐敗ぶりは単なるフィクションで片付ける事はできないものであり、それが表面化した結果が現在の日航の凋落ぶりなのだろう。
 一方、敢えて政治色に染まっていない国見を国民航空再建の指導者に抜擢してみたものの、国見の不正追及の手が自らにまで及びかねないことを知った途端、一転して保身に走り国見を更迭するという政界も、国民航空同様に腐りきっている。閣議決定へ持ち込むために、敢えてネタを野党・社進党へリークするなど小技もさえており、そのリアリティにあふれる描写はは作者・山崎豊子氏の着眼・観察眼の鋭さの証左だと言えるだろう。これだけの重厚な構成の作品を映画化するには、おそらくは202分という長い尺をもってしてもまだまだ不足していただろうことは間違いない。是非原作となった小説を読んでみたいと思わせる中身のぎっしりと詰まった超大作だった。