評     価  

 
       
File No. 1121  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2009年12月12日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   松岡 錠司  
       
上 映 時 間   115分  
       
公開時コピー   泣かないで。
僕は、すごく幸せだったよ。
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   森本 慎太郎 [as 原田草太]
桑島 真里乃 [as 有馬早代]
香川 照之 [as 有馬政光]
壇 れい [as 有馬きよ]
マイコ [as 長谷川康子]
山本 學 [as 老紳士]
浅野 忠信 [as 萩尾]
中村 嘉葎雄 [as 原田正吉]
岸 恵子 [as 有馬早代(現代)]
 
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あ ら す じ    クリスマスイブ。祖母・早代宅を訪れていた長谷川康子は、祖母に宛てた古い原稿用紙の束を、訪ねてきた見知らぬ老紳士から受け取った。原稿用紙に綴られていたのは、今はもう早代しか知らないはずの70年前の忘れられない出来事だった。
 昭和11年。会社を経営する村の有力者有馬政光と母きよに見守られて何不自由なく育った少女早代は、学校が終わるといつものように幼なじみの草太に会いに行く。親を早くに亡くした草太は、炭焼きでかろうじて生計を立てていた祖父正吉と2人で暮らしていた。貧しさのために学校に通えない草太だったが、大好きな絵が描ければそれで幸せだった。そして、早代は決して卑屈にならない素直で純真な草太のことが好きだった。
 ことあるごとに正吉は草太に言う。「誰かを恨んだりしたらいけない」と。正吉に代わって犬のチビと一緒に炭を売りに行った帰り道、お金を盗まれてしまい、帰って泣きじゃくる草太に対しても、「その人はわしたちよりもお金が必要だったんだ。また働けばいい」と優しく草太を諭すのだった。
 そんな正吉が唯一草太を厳しく戒めたのは、草太が村にやって来たサーカスを見たいと言った時だった。しかし、早代に誘われた草太は、こっそり裏口からサーカス小屋に忍び込んで、人の心が読めるというピエロの萩尾と出会う。草太は知る由もなかったが、実は萩尾は草太の実の父親だったのだ。そして、そのことを知った萩尾は何かと草太を励ますようになる。しかしやがてサーカス団は村を去っていき、萩尾は別れも告げずに草太の前から姿を消してしまった。
 ある朝のこと。目を覚ました草太は正吉に声をかけるが、正吉は一向に目を覚まさなかった。体調が思わしくない日々が続いていた正吉が、世を去ってしまったのだ。絶望にうちひしがれる草太には、1枚の絵を完成させることしか頭になかった。萩尾が一緒に探してくれた幻の土で作った、夜空色の絵の具を使って。そして、クリスマスの夜に、草太はチビと共に完成した絵を持って早代に会いに行くのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    『スノープリンス』なんてタイトルに加えて、日本版フランダースの犬などというコピーのおかげで、もっと垢抜けた作品だと思ったらとんでもない、時代設定は第2次世界大戦前で、主人公の草太はこれぞ『日本之下層社会』とでも言いたくなるような極貧暮らし。主人公の草太と早代の爽やかさに救われているものの、下手をしたら底なしの泥沼に引きずり込まれるような陰鬱な作品になりかねない。それにしても、あんな環境で草太のように真っ直ぐで純真な少年が育つとはちょっと考えにくい。、中村嘉葎雄分する“じっちゃん”こと正吉は神様のような人格者であったとしか思えない。もしも私が草太のような環境で幼少期を過ごしたならば、盆栽の松の木のように曲がりくねった非常に扱い難い性格になっていたことは間違いない(笑)。
 時代設定が大戦直前というのは、おそらくは終戦後間もない1947年に義務教育制度が施行されていることから、草太が学校に通っていないという設定に不自然さを感じさせないために、義務教育実施前の大戦直前が舞台となったのだと思われる。余談だが義務教育とは、「子供には教育を受ける義務がある」のではなく、「親には子供に教育を受けさせる義務がある」ことなので念のため。それはともかく、あれほどのどん底の貧乏暮らしを見せつけられると、かえって現実感が薄れてこれはフィクションなのだと割り切って観ることができ、悲壮感も希薄になってしまう。
 おそらく戦前の日本では草太のように貧しさ故に学校に通えない子供が少なくなかったのだろうとは思うのだが、そんな草太を見ながらも誰も手を差し伸べようとしない世相には寒気を感じる。まして、草太の身近には会社を経営し財力にも余裕のある早代の父・有馬政光がいた。にもかかわらず、政光は草太を援助しようとしないばかりか、早代から遠ざけようとするだけで助けようという気持ちが微塵も感じられないのが腹立たしい。そんな憎まれ役の政光像を作り上げた香川照之の演技はさすがだと言える。彼は、そのルックスからしても『カイジ』やこの作品のように、癖のあるキャラクターの方が彼の持ち味が生きると思う。