評     価  

 
       
File No. 1183  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2010年03月20日  
       
製  作  国   アメリカ  
       
監      督   ジェイソン・ライトマン  
       
上 映 時 間   109分  
       
公開時コピー   あなたの“人生のスーツケース”
詰め込みすぎていませんか?
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   ジョージ・クルーニー [as ライアン・ビンガム]
ヴェラ・ファーミガ [as アレックス・ゴーラン]
アナ・ケンドリック [as ナタリー・キーナー]
ジェイソン・ベイトマン [as クレイグ・グレゴリー]
ダニー・マクブライド [as ジム・ミラー]
メラニー・リンスキー [as ジュリー・ビンガム]
エイミー・モートン [as カーラ・ビンガム]
サム・エリオット [as フィンチ機長]
J・K・シモンズ [as ボブ]
ザック・ガリオフィアナキス
クリス・ローウェル
スティーヴ・イースティン
アディール・カリアン
 
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あ ら す じ    バックパックに人生の持ち物を詰め込みすぎると動けなくなる、我々は動きを止めたら死んでしまうサメである、従ってバックパックに入らない人生の荷物は一
切背負わない
それが、1年365日のうち322日を出張で過ごす、解雇
通達人ライアン・ビンガムのポリシーだった。そんな彼のステータスは、航空会社のカードに貯め込まれたマイレージで、目前に控えた1,000万マイルを達成することが彼の当面の人生の目標であり、そんな生き方に疑問を感じたことなどは一度もないライアンだった。
 そんな彼の生き方が微妙に狂ってきたきっかけは、出張先で自分と同様に全国を飛び回っているアレックスと出会ったことだった。同じ価値観を持った2人はすぐに意気投合して一夜を共にしたが、それはあくまで大人の割り切った関係であるはずだった。そして、そんな出会いよりもさらに大きな波となって彼に降りかかってきたのは、ボスのクレイグ・グレゴリーから新入社員のナタリー・キーナーの教育係を命じられたことだった。
 優秀だが典型的な現代っ子らしい理詰めの考えをするナタリーは、あろうことか解雇通告をネットで行うことで出張を廃止するという合理化案を提案したのだ。しかし、ライアンに付き添って実際に解雇通告を体験したナタリーは、解雇を告げられた人々の様々なリアクションに戸惑い、ネットで事務的に解雇を告げる方法に疑問を感じ始める。そして、やがてナタリーに致命的なショックを与えるような事件が起きてしまう。
 一方のライアンは、乗り継ぎのタイミングを合わせてまでアレックスと会いたいと思うようになり、妹ジュリーの結婚の結婚式にアレックスを誘って出席するまでになった。そんな彼の行動はは、明らかに彼のバックパックには入らない“何か”を自ら詰め込もうとしていることに他ならなかった。自らが今まで貫き通してきた信念を曲げてまで、バックパックに入らない物を背負う決心をしたライアンだったが、そんな彼の決心をあざ笑うかのような出来事に彼もまた遭遇するのだった・・・・・。。
 
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たぴおか的コメント    ご存じ、アカデミー賞で作品賞並びに主演男優賞にノミネートされた作品。結局は無冠に終わったものの、私にとっては6冠を獲得した『ハート・ロッカー』などよりも遥かに素晴らしい作品だった。不況とそれに伴うリストラ、そしていとも簡単に社員を斬り捨てる企業における人間関係の稀薄化など、現代社会が抱える病弊をさりげなく取り込みながらも、「この作品は現代を批判した社会派作品だ」などと肩肘を張ることもなく、あくまで軽妙な娯楽作品に仕上げられているのが観ていて心地いい。そしてそれは、メガホンを執ったジェイソン・ライトマン監督の手腕の為せる業であり、演じるジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリックらの演技の賜だろう。
 今までの人生で、誰かと関わりを持つことを必要とせずに生きてきたライアンだが、おそらくそれは本当に人との関係を必要としなかったワケではなく、必要ではないと無意識に自分に思い込ませてきたのではないだろうか。1,000万マイル達成を目標にする人生が悪いとは言わないが、マイルを達成した後は一体何を目標に生きていくのか?仕事に打ち込める間はまだしも、やがて必ず引退する時は訪れるはずで、その先は何を支えに生きていくのか?馬鹿ではない彼のこと、そのことを考えたことがないはずはないだろう。そういう意味では、ライアンは完璧なまでに不安を昇華させてきた人物だと言えるだろう。
 人間は誰しも多かれ少なかれ、この「昇華」という防衛機能を使って生きている。その典型とも言うべきライアンを見せつけられ、我が身を振り返らざるを得なくなった人間は、私を含めて少なくないだろうと思う。特に、ライアンがはるばるアレックスに会うために彼女の自宅まで押しかけたシーンでは、落ち込むライアンに対して極めて冷静な対応で門前払いを食わせたアレックスに、私もライアン同様に打ちのめされたようなショックを感じずにはいられなかった。それまで自分が生きる支えにしてきたポリシーが崩壊した時、人間がいかに弱い生き物であるかを身をもって体験することになるのだ。その押しつけがましくないさり気なさが、この作品の有する最大の特性であり、この作品が秀作たる所以でもあるだろう。