評     価  

 
       
File No. 1224  
       
製作年 / 公開日   2010年 / 2010年06月05日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   中島 哲也  
       
上 映 時 間   106分  
       
公開時コピー   告白が、あなた命につきささる。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   松 たか子 [as 森口悠子]
岡田 将生 [as 寺田良輝]
木村 佳乃 [as 過保護な母親(犯人Bの母)]
 
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あ ら す じ    とある中学校の1年B組のホームルーム。担任教師・森口悠子が生徒たちに向かって告白を始めた。それは、数ヶ月前に彼女の一人娘が学校のプールで死亡した事件についてだった。彼女の話など聞こうともせずに勝手に騒ぐ生徒を叱りもせずに、彼女は話を続けた。「警察は事故死と断定したが、娘はこのクラスの生徒に殺されたのだ」と。そして、犯人を絶対に許さないと断言した彼女が自らの手で犯人に与えた処罰は、2人が飲んだ牛乳にHIVに感染した血液を混入したと言い、その日限りで学校を去っていった。
 成績が優秀な犯人Aは、それ以来クラス中の皆からイジメを受けるようになった。過保護な母親に育てられたもう一人の犯人Bは、次の日から自室に閉じこもって学校にも登校しなくなった。そんなクラスに森口の後任として着任したのは、熱意あふれる若さゆえに周囲の空気にお構いなしで突っ走る、自称“ウェルテル”こと寺田良輝だった。そしてウェルテルは、ひとりの女生徒を伴って、毎週のように犯人Bの自宅に押しかけるのだった。そして、このウェルテルの行動がやがて悲惨な事件を引き起こすきっかけとなるのだった。
 ウェルテルと共に犯人B宅を訪問していた女生徒は、一方では犯人Aの唯一の理解者でもあった。一見仲が良さそうに一緒の時間を過ごす女生徒と犯人Aだったが、彼にとっては彼女のことなどどうでもよく、頭の中にあるのは彼を置いて出て行った母親への歪んだ愛情だけだった。そんなAは母親に自分の存在を訴えたいがために、ある驚くべき行動に出ようとするが・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    いや〜、これは色んな意味でとんでもない作品だ。おそらくは、これを観た観客の大半は、終了後に言い表せないような不快感を覚えたと思う。そして、かく言う私もその不快感を覚えた大半の観客に含まれるのだ。これほど衝撃的でかつ何のカタルシスも得られない、ただただ泥沼に引き込まれるような思いだけが残る作品を観て、もしも爽快感を感じる者がいるとすれば、申し訳ないが完全に精神を病んでいると言わざるを得ない。しかしながら、これほどの怖い映像を作り上げた中島監督の手腕はある意味非凡なものだと認めざるを得ず、その意味で星を9個という評価にしてみた。
 予告編で観た限り、松たか子扮する森口悠子が娘を殺した犯人を探すミステリーかと思ったら、実は冒頭から彼女には犯人がわかっている。そして、教師の存在などないかのように好き勝手に騒ぐ生徒たちを制することもなく、感情を抑えて淡々と語られる彼女の告白に仕込まれた、驚くべき毒。そ毒には即効性はないが、じわじわと犯人である生徒を追い詰めていく。私は今まで松たか子はあまり上手い役者とも思えず、従って彼女の出演する作品はハスに構えて観ていたのだが、この作品では初めて彼女が凄いと思えた。もっとも、彼女は告白を終えると早々にお役ご免でスクリーンから退場してしまうのだが、実はこの作品の真の姿が見えてくるのはこの後だった。
 この作品はあくまでフィクションであるのだが、ここに登場するような生徒がいないとは断言できない。他人を傷つけることに傷みを感じることなく、果ては人の命すら簡単に奪ってしまう。ある意味、今の病んだローティーンの縮図のような生徒たちだ。「みんなでやれば恐くない」的なイジメ、成績は優秀だが歪んだ方法でしか自己表現する術を持たない者・・・・・狂っているのは生徒たちだけではない。KY(=空気読めない)と言うよりも、自分が正しいと信じ切って生徒の声を聞こうとしない、岡田将生扮する教師の寺田良輝、典型的なモンスター・ピアレンツで我が子ではなく悪いのはすべて教師だという木村佳乃扮する過保護な母親。そんな環境の中、平然と行われる殺人・・・・・これがフィクションであって欲しいと願う一方では、決して現実に起こり得ないと断言するだけの確信を持てないのが恐ろしい。
 この作品の社会的な影響を考えると、本当に公開して良かったものだろうかと疑問を感じなくもない。この作品を観たことで、他人を傷つけることに対しての抵抗がさらに希薄化するようなことがないようにと切に思う。あまりにも絶望的に救いのない作品だが、それらはすべてアイロニカルな描写であって、あくまでも「命の重さ」をテーゼとして描かれていると思いたい・・・・・なーんてね。