評     価  

 
       
File No. 1293  
       
製作年 / 公開日   2010年 / 2010年10月09日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   緒方 明  
       
上 映 時 間   111分  
       
公開時コピー   あの人を殺して、私を奪いなさい。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   吉瀬 美智子 [as 手都芽衣子]
阿部 寛 [as 時籐隆彦]
玉山 鉄二 [as 赤城邦衛]
北川 景子 [as 松本美加代]
平泉 成 [as 神健太郎]
りょう [as 中井朔美]
笹野 高史 [as 遠野]
熊谷 真美 [as 恩田真紀子]
田中 哲司 [as 泉仙一]
堀部 圭亮 [as 工藤浩一]
町田 マリー [as 並木遙]
上田 耕一 [as 新川署長]
津川 雅彦 [as 手都孝光]
柄本 明 [as 柳町宗一]
 
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あ ら す じ    手都グループ会長・手都孝光の若く美しい妻手都芽衣子は、手都会長に拾われた恩義に報いるため、非合法な研究を強いられていた優秀な医師・時籐隆彦と愛し合っていた。そして、彼女の「あの人を殺して、私を奪いなさい」という言葉に、時籐は手都会長の殺害を決意した。
 その日、手都会長が神奈川県を仕切る広域暴力団の組長・神健太郎と会った後、時籐はロープで自室の上の階にある会長室へ忍び込み、会長を銃殺した後自殺に見せかけて部屋を退出した。ところが、この時に使用したロープをそのままにして、時籐は退社を余儀なくされてしまう。一旦帰宅したと見せかけて時籐は社に戻り、ロープを片付けに会長室のある6階へと向かった。そんな時籐を見かけて声をかけてきたのは、美容室クレオの店員松本美加代だった。
 ちょうどその頃、美加代の恋人で交番勤務の警官・赤城邦衛は、チンピラに絡まれた挙げ句に拳銃を奪われてしまう。彼の拳銃がチンピラたちから神に手渡されたのを見届けた赤城は、手都グループのビルの前に停められていた時籐の車にキーが差したままなのをいいことに、美加代を連れて時籐の車で神の車を追った。そして、妙な行きがかりで神と同じホテルに宿泊することとなった赤城は、神とその情婦で赤城の元恋人の中井朔美から愚弄された挙げ句、見境を失って神と朔美を射殺してしまった。
 一方、ロープを回収した時籐が1階へと向かう途中、エレベーターが停止してしまう。ビルは5時半になると一斉に電源が切られてしまうためだった。エレベーターに閉じ込められた時籐は、何とか脱出しようと試みるもののすべて上手くいかず、結局朝になって警備員の遠野が電源を入れるまで、エレベーターの中で過ごす羽目に陥ってしまう。そんな時籐を待っていた芽衣子は、時籐の車が美加代を助手席に乗せて走り去るのを目撃し、不安を募らせる。そして、時籐から連絡も入らないまま朝を迎えた芽衣子は、美加代の住所を聞き出して自宅を訪れると、部屋の中にいた赤城が時籐のコートを着ていたのを見て、すべてを察した。
 複雑に絡み合った、4人の男女の運命が辿り着く先は一体・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    フランスで1957年に製作された同タイトルのサスペンスを、日本を舞台に極力オリジナルに忠実にリメイクした作品。『LIAR GAME』で見せつけられた吉瀬美智子の美しさに、改めて魅せられてしまった。私の好きな美人はどこかに欠点があって、それが逆にそのルックスをさらに魅力的に見せているというケースがほとんどなのだが、彼女の場合は欠点が全く見当たらない完璧に整ったルックスというのが凄い。そして、こういう女優と競演できるからこそ、私は俳優という職業を羨ましく思うのだ。もちろん、共演の松本美加代役の北川景子チャンも可愛いのだが、吉瀬美智子の前ではそれすら霞んでしまうように思える。
 それほどまでの美人の芽衣子が、果たして本当に阿部ちゃん扮する時籐を本気で愛していたのか、その点がわからないという不安感が、この作品のサスペンス性を助長しているように私には思えた。時籐の真意を確かめようにも術がなく、ただ一人夜の街をさまよう芽衣子からは焦りが感じられないどころか、むしろ異様に冷静でいるように見える。それが時籐に感情移入して観ていた私には不気味であり、さらに不安を膨らませる。一方、玉山鉄二扮する銃を奪われた警官・赤城の常軌を逸したキレっぷりが見事。器量の小さい男がキレて後先を考えられずに突っ走るのがいかに怖いか、その見本のような男だ。ああいう男がもし本当に実在してしかもそれが警官だったりしたら、これ以上怖いことはない、そう思わせる玉山鉄二の熱演の賜だった。
 そんな中、ひとりエレベーターの中でもがく阿部ちゃんの存在感が今ひとつ薄い作品ではあったが、彼の唯一の見せ場は警察での取り調べのシーンだ。彼が手都会長を殺した真の動機は、もちろん、それも理由のひとつではあるだろうが、芽衣子に対する愛などという単純な理由ではなく、もっと別の、言わば男としての誇りや矜持といった感情で動いたことが彼の受け答えではっきりする。手都会長に拾われて意のままに利用され、今度は芽衣子に言われるままに会長を殺害した、それでは意志のない操り人形のようだった彼が、「自分の意志で殺害した」という思いが、唯一の心の拠り所であり存在意義だったのだろう。計画が失敗に終わったことを悟った、芽衣子の「そして、私は老いていく」というモノローグが強く余韻となって残っている。