評     価  

 
       
File No. 1351  
       
製作年 / 公開日   2010年 / 2011年01月22日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   瀬田 なつき  
       
上 映 時 間   110分  
       
公開時コピー   嘘だけどホント。壊れてるけど完ペキ。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   大政 絢 [as 御園マユ(まーちゃん)]
染谷 将太 [as みーくん]
三浦 誠己 [as 藤田刑事]
山田 キヌヲ [as 10年前の誘拐犯の妻]
鈴木 卓爾 [as 10年前の誘拐犯]
宇治 清高 [as 菅原道真]
田畑 智子 [as 上社奈月]
鈴木 京香 [as 坂下恋日]
 
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あ ら す じ    連日にわたって女性ばかりが狙われる通り魔猟奇殺人のニュースが報道されている名岐町では、新たに小学生姉弟の失踪事件が世間を騒がせていた。そんな名岐町で暮らす高校2年の美少女・御園マユは、学校でも机に伏せたままで、まるで積極的に生きることを放棄したかのように、何に対しても無関心なままだった。ある日、そんなマユを家まで尾行する一人の少年がいた。彼は図々しくもマユの家に上がり込むと、「お久しぶり、まーちゃん」とマユに親しげに語りかける。その言葉を聞いたマユは、喜びのあまり彼にいきなり抱きついた。彼は、まーちゃんことマユがひとりで10年もの間ずっと待ち続けてきた、幼なじみのみーくんだったのだ。2人は心に同じトラウマを抱えて生きていた。10年前に名岐町で起きた少年少女の誘拐監禁事件の当事者で、事件で生き残ったたった2人の生存者だったのだ。
 みーくんはマンションのまーちゃんの部屋を物色していて、誘拐が報道されているはずの小学生姉弟が軟禁されているのを見つけてしまった。みーくんはまーちゃんの犯罪を隠す決意をし、ずっと一緒にいてと言うまーちゃんの言葉に応えるためにも、その日から2人の小学生と共にまーちゃんのマンションに寝泊まりすることとなった。
 夜が訪れ、みーくんが灯りを消した途端、まーちゃんは暗闇を恐れて異常なまでに暴れて泣き叫んだ。翌日、みーくんはまーちゃんを精神科医坂下恋日のところへ連れて行くと、坂下はみーくんに言った。まーちゃんは過去の悲惨な記憶を封じることでかろうじて均衡を保っていられる。そして、みーくんと一緒にいられることだけが彼女の幸せなのだ、と。けれども、みーくんは知っていた。まーちゃんのそんな幸せは大きな嘘に支えられていることを・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』というタイトルに強烈に興味をかき立てられた作品で、オフィシャルサイトは何度も訪ねたものの、敢えてストーリーは見ずに劇場へ臨んだ。観てみると、何とも形容し難い不思議な雰囲気に包まれた作品で、冒頭からいきなり引きずり込まれてしまった。みーちゃんこと御園マユを演じた大政絢は、どこかで観たことがあると思ったら、2008年の『ニュータイプ ただ、愛のために』で愛する者を助けるために両目を失うというヒロイン津木野ユリを演じていた彼女だとわかった。この作品のまーちゃんといい複雑な役柄が多いのは、ひとえに彼女が醸し出す一種独特のアンニュイな雰囲気のためだろうか。
 対する染谷将太扮するみーくんは、まーちゃん以上につかみ所のないウナギのようなキャラクターだ。そして、笑うことができないということは、彼もまーちゃん同様にやっぱりどこか壊れているのだろう。台詞の後にお約束のように「嘘だけど」なんて言われたら、何が本当で何が嘘なのかワケがわからない・・・・・と最初は思うのだが、次第にみーくんの目的が明確になってくるにつれて、嘘で塗り固めたような彼の言葉から真意をくみ取ることができるはずだ。
 みーくんとまーちゃんの関係がまったくわからないままに2人が再会して、ストーリーが進んで行くにつれて徐々に過去の事実が明らかになっていくという構成が、この作品では実に効果的に使われている。何が嘘で何が本当なのか、一体何をしようとしてまーちゃんに近づいたのか、全く掴み所のないみーくんに、観ている観客もまた不安定さを感じて落ち着いていられない(笑)。そんなみーくんのペースに乗せられて、いつの間にかまーちゃんと同様に観ている者もまたみーくんが仕掛けた大きな“嘘”という陥穽に落とし入れられているのだ。その陥穽がどんなものなのか詳しくは言えないが、そのヒントとしてはキャスト欄のまーちゃんには御園マユという名前が載せてあるのに、なぜみーくんは“みーくん”としか書いていないか、という点。みーくんの名前はわかっているのだが、実はわかっていない。ラストに向けて次第に明らかになっていくみーくんの真実という大どんでん返しがこの作品の最大の醍醐味だと言えるだろう。
 とは言え、最後までハッキリしない点もあった。なぜまーちゃんことマユが小学生の姉弟を誘拐したのか?もしかして、親に虐待されていた2人を助けるため?みーくんがその2人を解放した時に、「また会える?」と尋ねられて頷いた後、「嘘だけど」といういつもの決まり文句を言うのかと思ったら、「嘘だといいけど」と言った言葉。2人を囮にして連続猟奇殺人の犯人を誘い出した?表面は無感情を装っているものの、実は2人のことを考えていただろうみーくんのこと、そんな無謀な真似をするとは考えにくいのだが。そして、果たして連続猟奇殺人の真犯人は“あの人”だったと解釈していいのか?確かに“あの人”も過去にトラウマを抱えているはずだから、田畑智子扮する上社奈月の分析する犯人像に一致してはいるのだが。時間があれば原作の小説を是非読んでみたいと思う。