評     価  

 
       
File No. 1357  
       
製作年 / 公開日   2010年 / 2011年01月29日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   園 子温  
       
上 映 時 間   146分  
       
公開時コピー   この素晴らしき世界。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   吹越 満 [as 社本 信行]
でんでん [as 村田幸雄]
黒沢 あすか [as 村田愛子]
神楽坂 恵 [as 社本妙子]
梶原 ひかり [as 社本美津子]
渡辺 哲 [as 筒井高康]
諏訪 太郎 [as 吉田]
 
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あ ら す じ    熱帯魚店を経営する社本信行は妻社本妙子とひとり娘の社本美津子の3人暮らしだが、その家庭ははもはや冷め切っていた。妙子は美津子の実の母が亡くなった後に信行と結婚した後妻のため、何かにつけて反抗する美津子は、その日も夕食の途中に男に誘われて出て行ってしまった。ところが、その後電話で呼び出されて信行と妙子は近くのスーパーへと急行した。美津子が万引きをしたというのだ。
 信行と妙子の前で警察沙汰にすると激昂する店長をなだめてくれたのは、偶然に居合わせた巨大熱帯魚店アマゾンゴールドのオーナー・村田幸雄だった。社本一家は、帰り際に村田から強引に店を見に来るよう誘われ、そのままアマゾンゴールドへと赴いた。そこで彼らを待っていたのは、村田の・村田愛子だった。そして、村田は社本に更正もかねて美津子を全寮制のアマゾンゴールドで働かせないかと言い出すのだった。
 村田の強引さに抗う術を持たない社本は、早速翌日から美津子を村田に預けることになった。そしてさらに村田は、妙子を通じて何千万という巨額の金が動く事業の共同経営をしないかと社本に持ちかけてきたのだ。半信半疑のままアマゾンゴールドへ村田を訪ねる社本だったが、実はその裏では詐欺などとは比較にならないほど恐るべき事態が待ち受けていることを、社本は知る由もなかった。
 社本が到着すると、村田のオフィスでは顧問弁護士だという男・筒井高康と村田が、事業への投資者だという吉田を説得しているところだった。1匹一千万もする高級魚を購入する契約をさせられる吉田を見て尻込みする社本に村田は、「社本さんは金を払う必要はない」と言う。そして、その言葉に隠された戦慄の事実を、社本は間もなく思い知らされることになる。恐るべき村田夫妻が社本に持ちかけた共同事業とは、一体・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    “世界が絶賛!『愛のむきだし』を超える、園子温の手加減無しの猛毒エンターテインメント”とコピーにはあるが、実際に観てみると猛毒なんて生やさしいもんじゃない。いかにも人の好さそうな(とは言っても、なんだか裏がありそうで素直にいい人とは信じられない)でんでんと黒沢あすか扮する村田夫妻が仮面を脱ぎ捨てると、観ている者は吹越満扮する社本同様にその非現実性に唖然とするしかない。思わず目を背けたくなるが、それでいて視線をはずせない、そんな状態は一種の強烈な麻薬にラリったトランス状態とでも言うべきだろうか。そうやって、知らずのうちに観客は社本に感情移入し、彼の目線で村田夫妻と対峙することになる。
 でんでんの熱演がハンパじゃなく、恫喝する、こき下ろす、持ち上げる、なだめすかす、おどけると千変万化で、その台詞の長さ、多さは凄まじい。そして、あの圧倒的なテンションの高さは、クランク・アップになった途端灰のように燃え尽きちゃったんじゃないかと心配になるほどだ。社本は次第に感覚が麻痺していき、やがて正気を保っているには現実から逃避せざるを得なくなってしまう。それは一種のマインドコントロールで、どこか常識的な部分が欠落した異常な犯罪者は得てしてそんな能力に長けているものだ。
 村田夫妻に精神的に蹂躙され、やがて無感覚に陥っていく社本を演じた吹越満の被虐的な演技もいい。今まで自らの意志を表に出さずに生きてきた社本に対して、容赦ない村田の恫喝が繰り返されるのだが、極悪人とはいえ村田の言葉にも確かに一理ある(だからといって、それまでに犯してきた悪行が許されるわけはないけど)。そして、村田の言葉に触発されたわけではないが、社本がついに今までの周囲に流されるままだった自分に訣別するのだが、その行く先は転落へと向かっているという皮肉がいかにもこの作品らしい。とにかく血まみれシーンがすさまじく、それもただ血まみれなだけではなく、人の体がバラバラにされていくというとんでもない描写なので、決して万人にお勧めできる作品ではない。この作品を観たい方は、その点を覚悟の上で観た方がいいと思う。