評     価  

 
       
File No. 1364  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2011年02月11日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   平山 秀幸  
       
上 映 時 間   128分  
       
公開時コピー   生きて、
日本に帰ろう
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   竹野内 豊 [as 大場栄大尉]
ショーン・マッゴーワン [as ハーマン・ルイス大尉]
井上 真央 [as 青野千恵子]
山田 孝之 [as 木谷敏男曹長]
中嶋 朋子 [as 奥野春子]
岡田 義徳 [as 尾藤三郎軍曹]
板尾 創路 [as 金原少尉]
光石 研 [as 長田少尉]
柄本 時生 [as 池上上等兵]
近藤 芳正 [as 伴野少尉]
酒井 敏也 [as 馬場明夫]
ベンガル [as 大城一雄]
トリート・ウィリアムズ [as ウェシンガー大佐]
ダニエル・ボールドウィン [as 歩ラード大佐]
阿部 サダヲ [as 元木末吉]
唐沢 寿明 [as 堀内今朝松一等兵]
 
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あ ら す じ    太平洋戦争も大詰めを迎えた1944年6月。陸軍歩兵第18連隊の大場栄大尉は、当時日本の統治下にあり軍事拠点として重要な役割を担っていたサイパン島へと送り込まれた。この島を死守することが日本軍にとって至上命題だったが、圧倒的な兵器と兵力を誇るアメリカ軍の優位は如何ともし難く、日本軍は完全な劣勢に追い込まれていた。サイパン守備隊の幹部は日本軍玉砕命令を発して自決し、大場隊の兵士は玉砕覚悟の突撃で次々と散っていった。
 アメリカ軍を奇襲した突撃にもかかわらず、アメリカ軍の倍もの犠牲者を出して終わりを告げた玉砕戦。その戦いで生き残った大場大尉の周囲には、上官を失った兵士や民間人が次々と集まってきた。そして、軍から離れて私怨から米兵と戦うやくざ者の堀内今朝松一等兵らと共同戦線を張った大場たちは、サイパン中央にそびえるタッポーチョ山に潜み、アメリカ軍への抵抗を続ける。大場率いる神出鬼没の部隊に翻弄されるアメリカ軍、とりわけ日本に留学経験のある海兵隊のハーマン・ルイス大尉は大場大尉を“フォックス”と呼び畏敬の念を抱くようになった。
 大場を死なせたくないと考えるルイス大尉は、米軍の収容所にいた日本人・元木末吉らの協力を得て、大場隊に対して抵抗を止めるよう警告するが、あくまで大場率いる47名の兵士は山を下りずに米軍に抵抗する道を選んだ。しかしやがて、大場の元に日本が敗戦したという情報が入り、東京が焼け野原同然の状態になった写真を見せつけられることになる・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    終戦間近のサイパン島を舞台に、実際にアメリカ兵から“フォックス”と呼ばれた大場栄大尉の一隊を描いた作品。原作は意外にも日本人ではなく、大場大尉の敵として戦った元アメリカ兵ということで、その分客観性が期待できるだろう。こういう役柄を演じさせたら、彼の右に出る者はいないのではないか、と思えるほどの竹野内豊の熱演を堪能させてもらった。キビキビとした動作と言葉遣いに常に背筋を伸ばした姿勢の良さなど、いかにも帝国軍人らしい外見ではないだろうか。
 それにしても、改めてここで言うことでもないが、戦争の悲惨さがこの作品にも如実に語られている。例えば、サイパン島で最後に試みられた総攻撃は、完全にアメリカ側の虚を突くというアドバンテージがあったにもかかわらず、アメリカ側の犠牲者2,000名に対して日本兵の支社はその倍の4,000人とのこと。いくら日本兵が死を恐れないとはいっても、これでは完全な犬死にとしか言いようがなく、こんな戦いをしていたら日本の敗戦は火を見るよりも明らかだ。
 そんな状況下で玉砕を叫ぶ兵士が現れるのも当然の成り行きなのだが、大場大尉の優れているところは、ただ闇雲に敵に向かって行っても意味がない、あくまでも勝つために戦うという冷静さを失わなかった点だ。その結果、死んで自らの花道を飾るよりも、生き抜いて祖国のために戦うという道を選んだわけで、とかく精神論に走りがちな日本人には珍しいタイプだと言えるだろう。そんな大場に敬意さえ抱いたルイス大尉もまた、数少ない日本の理解者であり、彼らのような軍人が軍部を統括していれば、もしかしたら愚かな戦争は回避できたのかもしれない。だが、そんな2人でさえ戦争という異常な状況に置かれたことから互いに反目し、殺し合うという愚行に走ってしまうのは悲しい限りだ。
 この作品の良さは、戦争というものを賛美することもなく(それは当たり前か)、かといって極端な反戦主義やそれが度を超すことによる厭戦主義に走ることもなく、日本軍を美化することも卑下することもなく、あくまで客観的かつ冷静に戦争を捉えている点だろう。だから、『硫黄島からの手紙』のようにこれ見よがしのお涙頂戴的なシーンもない。「戦争とはこういうものなのだ」というような押しつけがましさが一切なく、すべては観る側の受け取り方に委ねられているのだ。戦争映画が嫌いな人にも受け入れられるであろう、実直な作りに好感が持てる作品だ。