評     価  

 
       
File No. 1368  
       
製作年 / 公開日   2010年 / 2011年02月19日  
       
製  作  国   アメリカ  
       
監      督   クリント・イーストウッド  
       
上 映 時 間   129分  
       
公開時コピー   死に触れて、前を向く。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   マット・デイモン [as ジョージ・ロネガン]
セシル・ドゥ・フランス [as マリー・ルレ]
フランキー・マクラレン [as マーカス/ジェイソン]
ジョージ・マクラレン [as マーカス/ジェイソン]
ジェイ・モーア [as ビリー]
ブライス・ラダス・ハワード [as メラニー]
マルト・ケラー [as ルソー博士]
ティエリー・ヌーヴィック [as ディディエ]
デレク・ジャコビ [as Himself]
ミレーヌ・ジャンパノイ [as ジャスミン]
ステファーヌ・フレス
リンゼイ・マーシャル [as ジャッキー]
スティーヴン・R・シリッパ [as カルロ(料理教室講師)]
ジェニファー・ルイス
ローラン・バトー [as TVプロデューサー]
トム・ベアード [as 僧侶]
ニーアム・キューザック [as 里親]
ジョージ・コスティガン [as 里親]
レベッカ・ステイトン [as 福祉局職員]
デクラン・コンロン [as 福祉局職員]
 
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あ ら す じ    フランスのニュース番組でメインキャスターを務めるジャーナリスト・マリー・ルレは、恋人ディディエとバカンスに訪れていた東南アジアで大津波に襲われ、九死に一生を得た。それ以来、呼吸が停止していた時に見た不思議な光景が忘れられず、仕事にも身が入らない状態だった。ディディエから休暇を取ることを勧められたマリーは、著作に専念する傍ら、臨死状態で自分が見たものは一体何だったのかを調べ始めた。彼女が求職している間に、彼女の居場所はおろか、ディディエさえも後任のジャスミンに奪い取られてしまう。
 サンフランシスコ。かつては霊能力者を生業としていたジョージ・ロネガンは、死者との対話に疲れ果てて自らの能力を忌避するようになり、今では工場で働いていた。そんなジョージは人生を変えようとして通い始めたイタリア料理の教室でメラニーと知り合う。互いに好意を抱き始めた2人だったが、メラニーが彼の部屋を訪れた時に、ジョージの兄からかかった電話が元で、彼は今まで隠してきた自分の過去をメラニーに打ち明けざるを得なくなった。さらにメラニーはジョージに自分も霊視して欲しいと頼み込み、過去にそれが原因で皆が自分から離れていったと渋るジョージを説き伏せて彼の霊視を受けた。そして、彼女もまたジョージの前から去っていってしまう。
 ロンドンで母と暮らす双子の兄弟・ジェイソンマーカス。ある日ジェイソンが不遇な交通事故で亡くなってしまい、マーカスは母親がショックから立ち直るまで里親の元で暮らすこととなった。もう一度ジェイソンと話したいと切望したマーカスは、次々と霊能力者と会ってみるものの、本物に出会えることはなかった。そんなマーカスは、ウェブサイトを調べていた折、昔ジョージが霊能力者として開設してそのまま放置されていたサイトにたどり着いた。
 調査の結果を本に書き上げたマリーの原稿は、イギリスの出版社の興味を惹いた。そして、ロンドンで開催されるブックフェアに参加することになったマリー。再び霊能力者としてジョージを売り出そうとする兄から逃れ、ロンドンにある大好きなディケンズの博物館を訪れるジョージ。前の里子に会うために、里親2人に連れられてブックフェアを訪れることとなったマーカス。決して交わるはずのなかった3人の運命は、今ロンドンで交錯する・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    80歳を過ぎても今なお衰えるどころかますます意気盛んなイーストウッド御大の最新作は、前作『インビクタス』と同じくマット・デイモンとのタッグとなった。タイトルの“HEREAFTER”とは“来世”や“あの世”を意味する名詞で、この手のモチーフの作品は下手をすれば二流・三流のオカルト作品に陥ってしまいかねない危険性もあるところだが、さすがは御大、死後の世界自体ではなくそれに関わった3人の魂の救済・再生をテーマにした重厚なドラマに仕上げている。死後の世界を反語的に前面に押し出しながらも、そこに込められているのはあくまで強い「生」への主張だ。
 のっけから度肝を抜かれたのは、イーストウッド作品らしからぬ大津波のスペクタクル。製作総指揮にスピルバーグが名を連ねると、イーストウッド作品でさえもこうなっちゃうんだね。いきなり冒頭で大迫力の映像に観ている者もあっという間に飲み込まれ、そこから先は一転して静かだがそれでもスクリーンから一時も目を離すことができないのは、さすがイーストウッドだ。余談だが、津波をメインにした韓流作品『TSUNAMI』よりも、あくまで津波は脇役でしかないこの『ヒア アフター』の方が、津波の映像のリアリティ・迫力共に勝っているとは・・・・・本場ハリウッドの映像技術の底力を痛感させられた気分だった。
 住んでいる国も環境もすべて異なる3人の男女が抱える「生」に対する苦悩が、磁石のように引き合って最後にロンドンで交錯する。少々強引に思えなくもない展開だが、ジョージがチャールズ・ディケンズの大ファンであったことや、マリーの本がフランスでは出版できないこと、マーカスがロンドンで訪ねた霊能力者に本物がいなかったことがぞれぞれ布石として巧みに組み込まれているために、観ている者はすんなりとラストまで導かれる。特に私は、自らの特殊な能力のために人と距離を置かざるを得ないジョージの境遇には共感してしまう。今までその能力のために彼が愛した人は離れていった、そして今度は大丈夫かとメラニーを霊視した挙げ句、彼女もまた自分の前から去ってしまった。料理教室でひとり野菜を刻むジョージの姿を観るのは本当に辛かった。
 ラストシーンに関しては、「中途半端」だという意見があちこちのレビューで見られるが、私はむしろあそこで終わった方が暖かな余韻を残す意味でも正解だと思う・・・・・なんて言うのも、実は私が「ここで終わりになるんじゃないかな」と思っていた通りのシーンでエンド・クレジットに切り替わったためでもあるのだが(笑)。何もかも映像化してしまうのも悪くはないが、特にこの作品の場合はおそらくは100人いれば90人以上は同じ結末を想像し期待するだろうから、あえて映像で見せない方が綺麗な終わり方だと思うのだが。