評     価  

 
       
File No. 1373  
       
製作年 / 公開日   2010年 / 2011年02月26日  
       
製  作  国   イギリス / オーストラリア  
       
監      督   トム・フーパー  
       
上 映 時 間   118分  
       
公開時コピー   英国史上、
もっとも内気な王。
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   コリン・ファース [as ジョージ6世]
ジェフリー・ラッシュ [as ライオネル・ローグ]
ヘレナ・ボナム=カーター [as エリザベス]
ガイ・ピアース [as エドワード8世]
ティモシー・スポール [as ウィンストン・チャーチル]
デレク・ジャコビ [as 大司教コスモ・ラング]
ジェニファー・イーリー [as ローグ夫人]
マイケル・ガンボン [as ジョージ5世]
ロバート・ポータル [as 王室侍従]
エイドリアン・スカーボロー [as BBCラジオアナウンサー]
アンドリュー・ヘイヴィル [as ロバート・ウッド]
ロジャー・ハモンド [as Dr.ブランディン・ベンサム]
クレア・ブルーム [as メアリー女王]
イヴ・ベスト [as ウォリス・シンプソン]
 
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あ ら す じ    幼い頃から後天的な吃音にコンプレックスを感じ、加えて内気な性格から人前でのスピーチが最も苦手だった、現エリザベス女王の父親である英国王・ジョージ6世。父・ジョージ5世が退位した後を受けて王位を継いだ兄・エドワード8世が、王の妻として認められない離婚歴のある女性との愛を貫くために突如王位を返上したために、予想もしなかった王位に就くこととなってしまったのだ。そしてそれは、彼が最も恐れていた事態であり、恐怖のあまり子供のように泣きじゃくるジョージだった。
 何人もの言語聴覚士の治療を受けてみたものの、一向に彼のの吃音が改善されることはなく、そんな夫を気遣う妻のエリザベスはある日、治療の資格を持たないスピーチ矯正の専門家ライオネル・ローグを訪ねる。王の吃音が先天的なものでないことを知ったライオネルは、幼い頃に左利きを右利きに矯正されたことや、X脚が望ましくないと無理矢理ギプスを装着させられたことなどのトラウマが理由で固く閉ざされてしまった心に原因があると気づく。そして、王に対しても対等の立場で物を言うライオネルは、風変わりな治療法によって王の気持ちを解きほぐすことから手を着け始めた。
 国際情勢は風雲急を告げ、ヒトラー率いるナチスドイツとの開戦が決定的となり、英国民は誰もが王の力強い言葉を待ち望んでいた。そんな中、ジョージ6世は国民の心を一つにするため、渾身のスピーチに挑むことになるのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    アカデミー作品賞、主演男優賞(コリン・ファース)、助演男優賞(ジェルリー・ラッシュ)、助演女優賞(ヘレナ・ボナム=カーター)、監督賞、脚本賞、撮影、作曲賞、美術賞、衣装デザイン賞、音響賞、編集賞の合計11部門にノミネートされている、大本命とも言うべき作品。どうやら先だって公開された『ソーシャル・ネットワーク』との一騎打ちの様相を呈しているが、個人的には『英国王のスピーチ』に軍配を上げたい。そして、少なくとも主演・助演男優賞はコリン・ファースとジェフリー・ラッシュに獲らせてあげたい、そう思える秀作だった・・・・・と、ここまでを書いたのが映画を観終えて帰宅した土曜日の深夜。その後なかなか作業に取りかかれないうちに、アカデミー賞の授賞式が行われ、作品賞、主演男優賞、監督賞、そして脚本賞の4冠の受賞となった。ジェフリー・ラッシュが選に漏れたのは非常に残念だ。
 まずはコリン・ファース。王たる者、国民に意思を伝えることは極めて重要な任務だから、吃音に悩まされる辛さは常人の比ではない。しかも、本来なら彼の兄・エドワード8世がそのまま王位に就いていれば何の問題もなかったというのに、結婚が理由で王位を弟に譲ることとなったために、予想外の王位に就くことになったとは皮肉な話だ。そんな複雑な立場に立たされたジョージ6世を演じたコリン・ファースの演技がまずはお見事。吃音を演技するととかく大袈裟になりがちだが彼の場合は本当に自然で、演技していることを忘れさせてしまうほどの巧さだ。そして、映画は主役一人だけでは成り立たないワケで、ジェフリー・ラッシュの飄々としたユーモアに富んだ演技、それに夫を思いいたわる優しさのあるヘレナ・ボナム=カーター、その3人が織りなすアンサンブルがこの作品の最大の見所なのだ。
 英国王室の内情を描いた作品は少なくないが、その伝統と拡張の高さからとかく肩肘張った作品になりがちなのだが、この作品はジェフリー・ラッシュ扮するライオネルを登場させることによって、そんな堅苦しい枠組みをすべて取っ払ってしまっているのが魅力的。ジョージ6世とエリザベス、それに2人の王女というロイヤル・ファミリーの暖かな絆が描かれているのも観ていて心地いいし、いかに英国王とは言っても“公人”である以前に妻も子もある“私人”だということ、言い換えれば普通の庶民の立場にまで王を下げて描いていることが成功の一因であることは間違いない。
 クライマックスのスピーチでは、観ている側までもが手に汗握る緊張感をジョージと共有することになる。ライオネルの言うとおり、すらすらと述べるスピーチよりも、ゆっくり間を置いた方が威厳があり説得力に満ちていることがわかる。スピーチが終わった後、ライオネルから「“W”のところでつっかえた」と指摘されたのに対して、ジョージが返した言葉は最高で、決して御涙頂戴シーンではないのにもかかわらず、意に反して目頭が熱くなってしまった。