評     価  

 
       
File No. 1399  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2011年04月29日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   成島 出  
       
上 映 時 間   147分  
       
公開時コピー   優しかったお母さんは、
私を誘拐した人でした。
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   井上 真央 [as 秋山恵理菜(薫)]
永作 博美 [as 野々宮希和子]
小池 栄子 [as 安藤千草]
森口 瑤子 [as 秋山恵津子]
田中 哲司 [as 秋山丈博]
市川 実和子 [as 沢田久美(エステル)]
平田 満 [as 沢田雄三]
渡邉 このみ [as 秋山恵理菜(薫)(少女時代)]
劇団ひとり [as 岸田孝史]
余 貴美子 [as エンゼル]
田中 泯 [as タキ写真館・滝]
風吹 ジュン [as 沢田昌江]
 
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あ ら す じ    20年前に起きた乳児の誘拐事件。被害者は秋山丈博恵津子夫妻で、誘拐されたのは2人の生後6ヶ月になる娘の恵理菜、そして誘拐したのは丈博の会社の部下でもある愛人・野々宮希和子だった。希和子は秋山夫妻の赤ん坊を一目見て諦めようと夫婦不在の秋山宅に侵入したが、赤ん坊を抱き上げた彼女はそのまま恵理菜を抱いて秋山宅から走り出してしまったのだった。
 希和子は赤ん坊に薫と名付け、東京を離れて大阪で名前を変えて生活を始めた。そんな時に出会ったのが、悩みを抱える女たちが自給自足をしながら共同生活を送るエンゼルホームのエステルこと沢田久美だった。そして希和子と薫は久美に連れられてエンゼルホームを訪れ、そこで暮らすこととなった。しかし、新興宗教の教祖まがいのリーダー、エンゼルに統率された暮らしに不安を覚えた希和子は、ある日薫を連れて施設を抜け出した。
 希和子が薫を連れて訪れたのは、久美の両親が暮らす小豆島だった。そしてそこで、薫は久美の母・沢田昌江に頼み込み、久美の父・沢田雄三が経営する製麺所に住み込みで働くこととなった。薫にも友達ができ、久美同然に希和子を世話してくれる沢田夫妻のおかげで、2人は今までにない安らかな暮らしを手に入れることができた。しかしそれも長くは続かず、やがてひょんなことから希和子と薫が写った写真が全国紙に載ってしまい、薫が4歳の時希和子は逮捕され、裁判で懲役6年を宣告されたのだった。
 大学生になった恵理菜は、両親とどう接したらいいかもわからないまま、バイトをしながら一人暮らしをしていた。接し方がわからないのは両親も同じで、特に恵津子は何かにつけて希和子を思い起こさせる薫の言動に加え、世間から受けるいわれのない誹謗・中傷にさらされて疲弊し切っていた。そんな状況の中、薫の理解者は家庭を持つ岸田孝史だけだった。ところがある日、恵理菜は自分が孝史の子を妊娠していることに気づく。妻子のある男の子供を妊娠してしまうという、あの女と同じ道を自分が歩んでしまっていることに、恵理菜は動揺を隠せなかった。
 そんな折、バイト先にルポライターの安藤千草が、誘拐事件のことを尋ねに訪れた。土足で心の中に踏みいるような千草の言動に苛立ちながらも、なぜか彼女を拒絶できない恵理菜。やがて恵理菜は千草から、自分は幼い頃にエンゼルホームで一緒に過ごしたことを打ち明けられるのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    147分という長めの尺も気にならず、最後まで退屈させない作品ではあったが、それでいて何か一つ物足りなさを感じ、思いのほかあっさりと終わってしまったように思えた。そして、タイトル『八日目の蝉』に対する違和感。確かに作品中に何カ所か“八日目の蝉”に関する台詞はあるものの、それがこの作品の本筋とは全く絡んでこない。無理矢理取って付けたように思えて仕方ないのだ。
 主演の井上真央、永作博美、それに子役の渡邉このみチャンと小池栄子の演技はゲイ達者を揃えただけあってさすがだが、それは原作者も女性であり、この作品自体も女性が中心で男性はほんの添え物程度にしか登場しないために余計にそう感じてしまったのかもしれない。田中哲司扮する父親・丈博に劇団ひとりが演じる恋人・孝史は、揃いも揃って困難な現実から簡単に逃げる事なかれ主義で、それがかつての希和子と現在の恵理菜と巧く対比されている辺りは、原作の設定の妙だろう。そんな中で、小池栄子が演じた安藤千草というキャラクターの存在を奇異に感じてしまう。いくら子供の頃に恵理菜(薫)と同じエンゼルホームで育ったとはいえ、心により深い傷を負った恵理菜が普通に成長したのに対し、あそこまで偏った人格が形成されるものなのだろうか。ああいった特殊な環境で育ったことがない私には理解できないことなのかもしれないが。
 また、思ったより登場人物の心理描写が浅いようにも思えた。恵理菜は何に対して苦しんでいたのか?決して自分を誘拐した希和子が憎くて仕方なかったわけではない。むしろ、彼女が受けた母親の愛情や優しさはすべて希和子から受けたもので、理性では自分を誘拐した憎むべき相手とわかっていても希和子を憎めるはずはない。そういった感情がスクリーンからは伝わってこないのだ。もっとも、敢えて恵理菜が何に苦しんでいたのかを意図的にハッキリさせなかったという演出だったのかもしれないが。