評     価  

 
       
File No. 1401  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2011年04月29日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   三宅 喜重  
       
上 映 時 間   119分  
       
公開時コピー   終着駅は、きっと笑顔。  

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   中谷 美紀 [as 高瀬翔子]
戸田 恵梨香 [as 森岡ミサ]
南 果歩 [as 伊藤康江]
谷村 美月 [as 権田原美帆]
有村 架純 [as 門田悦子]
芦田 愛菜 [as 萩原亜美]
小柳 友 [as カツヤ]
勝地 涼 [as 小坂圭一]
大杉 漣
相武 紗季
安 めぐみ
玉山 鉄二 [as 遠山竜太]
宮本 信子 [as 萩原時江]
 
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あ ら す じ    OLの高瀬翔子はある日、会社の同僚でもある婚約者から突然の別れを切り出される。翔子が目をかけてきた後輩と関係したばかりか、妊娠させてしまったというのだ。自分を2人の結婚式に呼ぶことを条件に2人の結婚を認めた翔子は、式では思い切り綺麗に装って新郎に後悔させてやろう、2人にとって結婚式を苦い思い出にしてやろうと決意して、タブーとされている白のドレスで式に出席した。
 式場からの帰り道、そのままのドレスで翔子は西宮北口へ向かう阪急電車今津線に乗り込んだ。自然と悔し涙があふれる翔子に声をかけてきたのは、孫の亜美と2人で電車に乗っていた老婦人・萩原時江だった。翔子は時江に婚約者を後輩に寝取られたことや、2人の式で思い切り目立ってやろうとしたことすべてを打ち明けた。そんな翔子に時江は、思いがけない言葉で翔子を励ましてくれた。
 そんな翔子と時江の様子を横目で見ていたのは、女子大生の森岡ミサだった。彼女は彼氏のカツヤの暴力に悩んでいて、電車内でも些細なことから腹を立てたカツヤはミサに手を挙げたうえに、ひとり電車を降りてしまった。それを見ていた時江は「くだらない男ね」とつぶやき、ミサに「あんな男はやめておきなさい」と穏やかだが力のある言葉をくれ、ミサはカツヤと別れる決心をする。
 地方から出てきて都会のキャンパスに馴染めずにいた、関西学院大学の新入生、権田原美帆と、小坂圭一。ある日ふたりは偶然に阪急今津線の同じ車両に乗り合わせ、何気ないきっかけから言葉を交わす。やがて仲良くなった2人は、ある日帰宅時に関学を目指す受験生の門田悦子から声をかけられる。悦子は関学に合格する可能性が低く、諦めきれずに悩んでいたのだった。
 ある日、ミサが乗っていた電車に数人の奥様グループが乗り込んできた。そして、空いていたミサの隣の席にハンドバッグを投げ置き、遅れてきた伊藤康江をその席に座らせた。奥様グループが電車内でもお構いなしに騒ぎ傍若無人に振る舞うのを見たミサは、「おばちゃんってサイテー」と呟く。そして、康江が急に腹痛を訴えると、康江の体よりも自分たちのランチの心配をし始める。ミサは康江に手を貸して次の駅で電車を降り、康江にグループを抜けるよう助言するのだった。
 康江が降りた後も、周囲にお構いなしに騒ぎ続ける奥様グループに、時江に連れられて同じ車両に乗った亜美が「幼稚園では電車で騒いだら怒られるのに」と疑問を投げかけた。すると、それを耳にした奥様の一人が時江に「子供にどういう教育をしているのか?」と食ってかかった。ついに堪忍袋の緒が切れた時江は、奥様に「孫は間違ったことは言っていない」と返し、さらに延々と奥様グループに説教を始める。電車が終点に着き、降車した時江と亜美の背後から、同じ車両に乗り合わせていた圭一と美帆は賞賛の拍手を贈るのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    阪急電車には特に思い入れがある。子供の頃大阪の茨木市で生まれ育った私にとって、電車と言えば阪急以外にあり得ない、それほど慣れ親しんだ電車だった。なんせJR(当時は国鉄)の茨木駅は遠かったから。あの頃からン十年たった今でも全く変わらない小豆色の電車。私にとっては、関東を走るどんな私鉄よりも未だに最も身近に思える、それが阪急電車なのだ。ただ残念ながら、宝塚へ行く際に阪急宝塚線を、神戸へ行く際に神戸線を、それぞれ一度だけ利用した以外は、茨木市駅がある阪急京都線しか利用したことがなく、この作品の舞台となる今津線の存在はこの作品で初めて知った次第だ。
 今年観た邦画の中では間違いなくトップクラスにランクされる作品。上映開始前のロビーでも、所々で『阪急電車』という単語が聞き取れて、中には「もう満席だ」と言っている人もいた。開場になって席についてみると、確かに私が陣取った最後列はもちろん、前方に若干の空席があった以外はすべて満席という状態だった。そんな中、上映が始まってあの懐かしい電車がスクリーンに映っただけで早くも感慨に浸ってしまった私。この先、一体どうなっちゃうんだろう?という心配を払拭するかのような、中谷美紀扮する高瀬翔子と婚約者との修羅場から物語は始まった。
 中谷美紀はさすがに上手いねぇ、と改めて感心してしまった。婚約者を寝取られたショックを悟られまいと強がる姿、結婚式での毅然とした姿、そして帰りの電車内で見せた、強がっていた裏側にある素顔。そんな彼女に声をかけた老婦人・時江を演じた宮本信子の老獪さには脱帽。まるで人生の機微をすべてわきまえたみたいな、翔子に対するアドバイスの粋なことといったら。そして、ミサに対してはズバリと核心を突くような言葉を、おばちゃん集団には歯に衣を着せない辛辣な意見をと、この臨機応変さが観ていて爽快だ。
 ミサの親友役で相武紗季が主演していたのは意外だった。「相武紗季に似てるけど、髪も思い切りショートカットだし、多分違うよなぁ」と思いつつ、エンドクレジットを観てみたところやっぱり相武紗季だった。そして、彼女もまた登場時間は短いけれど、印象に残るいい演技を見せてくれている。
 登場人物の絡ませ方も巧く、見終えた後に穏やかな気持ちにさせてくれる秀作だった。