評     価  

 
       
File No. 1432  
       
製作年 / 公開日   2010年 / 2011年06月25日  
       
製  作  国   スペイン / メキシコ  
       
監      督   アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトウ  
       
上 映 時 間   148分  
       
公開時コピー   “絶望”の中にも必ず“光”は存在する。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   ハビエル・バルデム [as ウスバル]
マリセル・アルバレス [as マランブラ]
エドゥアルド・フェルナンデス [as ティト]
ディアリァトゥ・ダフ [as イヘ]
チェン・ツァイシェン [as ハイ]
アナー・ボウチャイブ [as アナ]
ギレルモ・エストレヤ [as マテオ]
ルオ・チン [as リウェイ]
 
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あ ら す じ    スペイン、バルセロナの片隅で生きる男ウスバルは、麻薬に溺れ荒んだ生活を送る妻・マランブラと別れ、愛する2人の子供アナマテオを男手ひとつで懸命に育てていた。決して裕福とはいえず、生活のためにあらゆる仕事を請け負っていたウスバルは、ときには麻薬取引、中国人移民への不法労働の手配など非合法な闇の仕事も厭わなかった。
 ある日、そんなウスバルに絶望的な宣告が下される。余命2ヵ月の末期癌に冒されているとの診断を受けたのだ。死の足音が確実に忍び寄ってくる中、ウスバルはその恐怖と闘いながらも、残されたわずかな時間を子供たちのために生きようと決意するのだった・・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    今までに観たハビエル・バルデムの出演作では、『海を飛ぶ夢』『ノーカントリー』と並んぶトップクラスの作品。キャラクター的には表情ひとつ変えない『ノーカントリー』の冷酷無比な殺人者アントン・シガーが似合っているとは思うが、嬉しい時には笑い、悲しい時には涙する普通の人間のウスバルも悪くはない。もっとも、あまり表情が豊かなタイプではないハビエルだからこそ、無表情がふさわしく思えるのかもしれない。
 一見華やかそうに見えるスペイン・バルセロナにも光と影があって、その影で生きるのが主人公のウスバルだ。彼の妻はお約束とも言うべきジャンキーで、2人の子供たちの面倒をウスバルが見なければならないわけで、それこそが彼が死を恐れる最大の理由なのだ。誰だって衝動的に手を上げるような母親には子供を任せるわけにはいかないだろう。その辺りの設定は、イニャリトゥ監督のオリジナル脚本だけに抜け目がない。いつかは子供たちに自分の死を告げなければならない、それは充分承知していながらも告げることができない、そんな父親のジレンマが伝わってくる。娘のアナに知られてしまった時には、ついにその時が来たと観念した反面、きっと肩の荷を下ろしたような安堵感もあっただろう。
 時として非合法な仕事にも手を染めるウスバルだが実は根は優しい男で、それは子供たちへの接し方からもわかる。そして、彼が優しいのは自分の子供だけに限らず、中国やアフリカから訪れている不法労働者たちにも親身になって接している。結局それが仇となって、最後には旦那が強制送還された女性から文字通り「恩を仇で返される」のは皮肉な話だ。同じ子供を持つ身として、遺されるウスバルの2人の子供の行く末が心配にならないものだろうか。所詮彼女にとってウスバルは、搾取する側の人間に過ぎなかったのかもしれない。
 中国人労働者達が一夜にして(おそらく一酸化炭素中毒だと思われるが)ほぼ全員が死亡してしまうシーンは衝撃的だった。その中には、ウスバルの2人の子供の世話をしてくれていた女性も含まれていたことに、観ている者は痛切な思いをウスバルと共有することになるだろう。紙オムツまで履いて熱演したハビエル・バルデムは、この作品で見事カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を獲得している。