評     価  

 
       
File No. 1486  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2011年10月08日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   若松 節朗郎  
       
上 映 時 間   129分  
       
公開時コピー   この恋は、甘い地獄。  

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   岸谷 五朗 [as 渡部和也]
深田 恭子 [as 仲西秋葉]
木村 多江 [as 渡部有美子]
石黒 賢 [as 新谷]
黄川田 将也
田中 健 [as 部長]
萬田 久子 [as 浜崎妙子]
中村 雅俊 [as 仲西達彦]
 
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あ ら す じ    大手建設会社に勤務するエリート社員の渡部和也は、美しく従順な妻・有美子と可愛い盛りの一人娘に囲まれ、不満という言葉とは無縁な恵まれた生活を送っていた。そんなある日、親友の新谷と訪れたバッティングセンターで、新谷が「俺たちはすでに男じゃない、ただのオジサンだ。若い頃だったら、あんな女を見たら間違いなく落としていた」と言った女性が、彼の部署に配属された派遣社員の仲西秋葉であることに驚く。流れでカラオケに行った3人だったが、「俺が嫌いなのは3つ、アボガドにマヨネーズ、それに酔っ払った女だ」と吐き捨てて新谷はひとり帰ってしまい、和也はやむなく酔った秋葉を家まで送った挙げ句背中に嘔吐されてしまう。
 後日、秋葉にメールで呼び出された和也は、洋服店でいきなり採寸されたことに腹を立てる。「なぜごめんなさいと謝れないか」と言葉を荒げる和也に対し、秋葉は「ごめんなさいが言えない」と涙をこぼす。気まずさを取り繕うために秋葉を食事に誘った和也は、そこで秋葉とサーフィンに行く約束を交わすのだった。
 サーフィンはあいにくの雨天で中止となり、和也と秋葉は彼女の叔母・浜崎妙子が営むバーで過ごす。そして、秋葉をタクシーで横浜の実家まで送った和也は、そこで秋葉の父・仲西達彦と遭遇する。父と娘の間に穏やかならぬ空気が流れるのを感じた和也は、秋葉を送り届けてすぐ帰るつもりだったが、彼女に招かれるままに豪邸に足を踏み入れる。そして秋葉は、その家でかつて殺人事件があったと、酔った勢いでほのめかす。彼女を置いて帰ろうとする和也だったが、取りすがる秋葉を突き放すことができず、ついに2人は一夜を共にしてしまうのだった。
 これは一度きりの事故のようなものだ、そう自分に言い聞かせる和也だったが、理性とは裏腹にますます秋葉にのめり込んでいく自分を抑えることができなかった。クリスマス、バレンタインデーと秋葉との密会を繰り返す和也は、もはや自らが言う“甘い地獄”から逃れることができず、ついに有美子と離婚して本気で秋葉を守ろうと決意した。ところが、そんな和也に対して秋葉は、「離婚は3月31日まで待って。それまでは何も決められない」と待ったをかけたうえに、3月31日の夜を一緒に過ごして欲しいと言う。果たして、3月31日の夜に一体何が起きるのか?そして、和也の“甘い地獄”の行き着く先は・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    「東野圭吾 初のラブストーリー」という謳い文句で真っ先に思い出したのは、あのラブストーリーの女王とまで言われた北川悦吏子が、「初のサスペンス」と言われて注目された『空から降る1億の星』で、キャストに明石家さんま、木村拓哉というビッグネームを擁したにも関わらず、惨憺たる出来で大コケしたことだった。ちなみに彼女は、あれ以降まったく振るわないようで、監督作『ハルフウェイ』も無残な結果に終わっている。そして、東野圭吾にとって「初」であるこの作品も大コケかと途中までは思われたのだが、ラスト5分にあんな仕掛けが用意してあるとは思わなかった。
 全体的には平均点の作品だと思うが、それでも最後まで観る者の興味をそらさずに引っ張ることができるのはひとえに秋葉を演じた深キョンの可愛さだと断言してしまうのは、やはり私が男だからだろうか。東野作品らしくミステリー的な要素も盛り込まれているものの、その真相は実はあまり重要な意味を持っていないんじゃないかな。重要なのは和也の情けない不倫の顛末で、3月31日の謎さえもラストに訪れる仕掛けへの単なる布石でしかないように思う。
 それにしても、個人的には考えさせられることが多い作品だった。恋愛における女性のしたたかさと強さ、男性の愚かさと弱さ。おおよそ生き物の世界ではメスに対してプロポーズするのはオスで、生殺与奪の権利はすべてメスにある。だから、この作品でも深キョン扮する秋葉に岸谷五朗扮する渡部和也は溺れていくが、最後に別れを切り出したのもまた秋葉で、すべてのイニシアティブは秋葉にある。そして、最初から最後まで和也は秋葉の思うままに操られてしまうのだ。
 もちろん、秋葉に恋愛感情がなかったわけではなく、きっかけがどうであれ秋葉もまた和也に対して計算抜きで惹かれてしまったのだろう。和也に無理をさせまいと、年末年始はバンクーバーで過ごすだの、バレンタインは会社の仲間とスノボに行くなどと嘘をつくいじらしさは、男性である私にとってはもう溜まらなく可愛い。けれども、感情が絡んでしまってもなお冷静な判断を失わないのが女である秋葉で、感情の赴くままに妻との離婚まで決意してしまう和也は、やはり愚かな男なんだなぁと思わずにはいられない。秋葉から別れを切り出された時に見せる和也の狼狽ぶり、あれはあたかもかつての自分の姿を観るようで、マジ背筋に寒気を覚えたよ(笑)。
 そして、もうひとりの女性である渡部の妻・有美子を演じたのが、今最も不幸な女性が似合う女優(失礼!)木村多江なのだが、実は彼女をキャスティングした意図がラストまではまったくわからない。いわゆる、夫を信じ切っていつも笑顔を絶やさない理想の妻を演じていて、どこが不幸な女性なのだろうと思わずにはいられない。けれども、そんな役柄じゃぁ彼女を起用した意味がない、やっぱり彼女には不幸が似合うのだ。
 彼女が本領を発揮するのはラストの数分程度なのだが、その数分が実に怖い(笑)。和也は上手く不倫をしていたつもりだったのだが、ところが有美子の方が一枚上手で、実は和也の浮気に気づきながらも平静を装っていたのだ。こういう時の女性の勘の鋭さには、本当に驚かされる。ここでもやはり男は愚かで、女の方がずっと利口なのだ。和也の「この地獄は一生続く」という最後の独白には実に説得力があり、私もそれには頷かずにはいられなかった。