評     価  

 
       
File No. 1527  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2011年12月23日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   成島 出  
       
上 映 時 間   140分  
       
公開時コピー   誰よりも、
戦争に反対した男がいた。
 

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   役所 広司 [as 山本五十六]
玉木 宏 [as 真藤利一]
柄本 明 [as 米内光政]
柳葉 敏郎 [as 井上成美]
阿部 寛 [as 山口多聞]
吉田 栄作 [as 三宅義勇]
椎名 桔平 [as 黒島亀人]
益岡 徹 [as 草野嗣郎]
袴田 吉彦 [as 秋山裕作]
五十嵐 隼士 [as 牧野幸一]
河原 健二 [as 有馬慶二]
碓井 将大 [as 佐伯隆]
坂東 三津五郎 [as 堀悌吉]
原田 美枝子 [as 山本禮子]
瀬戸 朝香 [as 谷口志津]
田中 麗奈 [as 神崎芳江]
中原 丈雄 [as 南雲忠一]
中村 育二 [as 宇垣纏]
伊武 雅刀 [as 永野修身]
宮本 信子 [as 高橋嘉寿子]
香川 照之 [as 宗像景清]
 
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あ ら す じ    昭和14年夏。日独伊三国軍事同盟締結をめぐり、日本中が揺れに揺れていた。2年前に勃発した支那事変が泥沼化しつつある中、日本は支那を支援する英米と対抗するためにも、新たな勢力と手を携える必要があった。強硬に三国同盟締結を主張する陸軍のみならず、国民の多くもまた強大なナチスの力に熱狂し、この軍事同盟に新たな希望を託していた。だがその世論に敢然と異を唱える男たちがいた。海軍大臣米内光政、海軍次官の山本五十六、そして軍務局長の井上成美らだった。彼らが反対する理由は明確だった。日本がドイツと結べば必ずやアメリカとの戦争になる。10倍の国力を持つアメリカとの戦は何としても避けなければならない。陸軍の脅しにも世論の声にも屈することなく、まさに命を賭して反対を唱え続ける五十六たち。その甲斐あって、やがて三国同盟問題は棚上げとなる。
 昭和14年8月31日、山本五十六は生涯最後の職である“連合艦隊司令長官”として旗艦長門に着任する。しかし、時を同じくして世界情勢は急転し始め、アドルフ・ヒトラー率いるナチス国防軍がポーランドに進攻を開始し、それを機に欧州で第二次世界大戦が勃発する。快進撃を続けるドイツの力に幻惑され、日本国内では再び三国同盟締結を求める声が沸騰する。そしてその流れに抗しきれず、海軍大臣及川古志郎は従来の方針を改め、同盟締結に賛成してしまう。そして、昭和15年9月27日、日独伊三国軍事同盟がついに締結され、その後日本は急速に戦争への坂道を転がり落ちていった。
 およそ40万人の将兵を預かる連合艦隊司令長官山本五十六は、対米戦回避を願う自らの信念と、それとは裏腹に日一日と戦争へと向かいつつある時代のずれに苦悩し続ける。だが昭和16年夏、どうしても米国との戦争が避けられないと悟った時、五十六は一つの作戦を立案する。米国太平洋艦隊が停泊するハワイ・真珠湾の戦闘機による奇襲攻撃だった。五十六は世界の戦史に類を見ない前代未聞のこの作戦を、軍令部の反対を押し切ってまで敢行しようとする。それは世界に勝つためではなく、真珠湾の勝利をもってアメリカと有利に講和するための苦渋に満ちた作戦だった。
 ところが、真珠湾には敵の空母は見当たらず、敵空母を叩くという五十六の目論見ははずれ、アメリカと講和にこぎ着けるほどの大きな戦果を得ることはできなかった。しかし、国内では真珠湾攻撃が大勝利でもあるかのように報じられ、国中の戦争に期待する思いは五十六の意に反してますます盛り上がっていった。そして、ミッドウェー海戦では敵空母一隻を沈めたことが大勝利として報じられるが、実際には日本は四隻の空母を失うという、事実上の敗戦に等しい結果に終わる。やがて戦争は長期化し、アメリカとの講和を諦めない五十六は、次第に為す術のない窮地に追い込まれていくのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    知っているようで実は何も知らなかった太平洋戦争。山本五十六の名前は知っていたが、太平洋戦争においてどのような役割を果たしたかについても、全く知識がなかった。劇場から帰りネットで調べてみると、日本国内はおろか海外でも日本を代表する提督として広く知られているとのこと。そして、当時の軍部といえば、天皇の威光を笠に着て日本を戦争へと走らせた愚か者ばかりだと思っていたが、中には山本五十六のように冷静に状況を分析・判断し、10年後を見据えて行動できる人物がいたことを初めて知った。
 ただ、この作品は山本を主人公として描いている以上、ある程度の脚色はしてあると考えた方がよさそうだ。冷静かつ客観的に史実を描写した作品ではなく、あくまで山本五十六という聯合艦隊司令長官を主人公に据えたドラマだということを常に念頭に置いておく必要がある。事実、Wikipediaで山本五十六を調べてみると、肯定的な評価よりも否定的な評価の方が量的には多いように思える。ただ、あまりにも文字数が多いために、すべてを読む気にはとてもなれないけど(笑)。とは言うものの、日独伊三国同盟を拠り所に好戦的な姿勢の軍部にあって、開戦することに強く反対したというのはまぎれもない事実のようだ。たとえ、彼の考えの根底にあったのが反戦・厭戦思想ではなく、あくまで合理的に成果を見積もった結果であったとしても。
 仮に山本五十六が戦略に長けた知将であったとしても、あれでは勝てる戦も勝てなくなってしまう、それほど作品中の海軍には統制というものが欠如している。ミッドウェー海戦では戦闘機に魚雷を搭載するよう指示した山本の命令を無視し、敵空母など現れないとタカをくくって独断で攻撃し、結果として日本は4隻の空母を失ってしまった南雲中将。上官命令を無視するなど戦場ではあるまじき行為で、戦時下の日本においてはその功罪は万死に値するものではなかっただろうか。山本の引き立て役とはいえ、南雲がああまで無能な指揮官だったとは、ちょっと考えにくいのだが。
 最初で最後のチャンスだったにもかかわらず、大きな成果を上げることができなかったばかりか、却ってアメリカの敵意を煽ることとなった真珠湾の奇襲、そしてどう見ても惨敗だったミッドウェー海戦。それらを報じた新聞社の記事が、いかにも日本が連戦連勝しているかのような、事実を歪曲したものであることは、当時の国による言論統制がいかに行われていたかを知るいい材料だ。玉木宏が演じた、架空の人物であるこの物語の語りべ・真藤利一は、現代でこそ真っ当な思想の持ち主だと言えるが、当時としては明らかに非国民に属する思想の持ち主だ。それに対して、香川照之扮する上司の宗像景清こそ模範的な愛国者であり、国が望んだ国民像なのだ。正論が正論としてまかり通らない、そんな不条理さこそ、戦時下という異常な状況のなせる業なのだ。
 日本を代表する提督を演じるのは、こちらも日本を代表する俳優の役所広司で、ちょっと太ったように見えるのは役作りのためだろうか。貫禄充分な反面、彼の真意がどこにあるのか計りかねるのは残念だ。また、彼の上司である柄本明扮する海軍大臣が後の内閣総理大臣・米内光政だったとは、劇中では全くわからなかったのを筆頭に、誰が誰を演じているのかが理解し難いのもツライところだ。ちなみに、世相を反映するためなのか、瀬戸朝香扮する谷口志津や田中麗奈扮する神崎芳江の登場は、ハッキリ言って蛇足だろう。
 山本が最期を遂げるのは、周囲が制するのも聞かずに戦地へ赴いたためであるが、私には彼が死地を求めていたとしか思えない。事前に「若い者が命を落とし、自分のような老いぼれが生き残り・・・・・」とこぼしているからだ。しかし、真藤利一の語りによれば、山本亡きき後は戦争を終結させられる人物はおらず、そのために彼の死後に散っていった若者の数は戦死者の9割にも昇ったという。既に散った命に対して死をもって詫びるよりも、未来に散っていく命を少しでも減らすために生きながらえるべきではなかっただろうか。たとえ生き恥をさらすことになろうとも、戦争終結のために尽力する、そうでなければ本物の英雄とは言えないと私は思うのだが。