評     価  

 
       
File No. 1533  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2012年01月07日  
       
製  作  国   イギリス  
       
監      督   デヴィッド・マッケンジー  
       
上 映 時 間   92分  
       
公開時コピー   五感が
消えていく
 

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   ユアン・マクレガー [as マイケル]
エヴァ・グリーン [as スーザン]
コニー・ニールセン [as ジェニー]
スティーヴン・ディラン [as サミュエル]
ユエン・ブレムナー [as ジェームズ]
デニス・ローソン [as 刑事]
アラステア・マッケンジー
キャロライン・パターソン [as 患者の妻]
リズ・ストレンジ
ジェームズ・ワトソン [as バス運転手]
リチャード・マック [as 見習いシェフ]
 
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あ ら す じ    誰か人がいると眠れない、だからベッドを共にした女性も事が済んだら追い出してしまう、シェフのマイケル。彼はある日、勤務先の料理店の裏口から、向かいのビルに住む女性に声をかけた。彼女は感染症学者のスーザンで、その時彼女は原因不明の症状で担ぎ込まれてきた患者を抱えていた。その患者の症状とは、突然嗅覚が利かなくなってしまうというものだった。けれどもスーザンは、それが人類がかつて経験したことのない、全世界を未曾有のパニックに陥れるような感染症の前兆に過ぎないことなど、知る由もなかった。
 その異変は、静かにしかし確実に世界中へ蔓延していき、やがて嗅覚に続いて人々の味覚をも奪っていった。味覚と嗅覚のない世界に、人類は次第に適応していくかのように見えたが、事態はそれだけでは収まらなかった。やがて、突然激しい怒りを爆発させた後、突然聴覚を失う人々が現れ始めたのだった。そんな極限状況のさなかに、マイケルとスーザンは恋を育んでいく。ひとつ、またひとつと五感を喪失し、世界が終わりを迎えようとしたとき、ふたりはいったい何を求め、何を感じ取るのだろうか・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    昨年末の『ロンドン・ブルーバード』に続いてのイギリス映画で、主演は英国のトップ・スターであるユアン・マクレガーと、こちらもまた英国女優の・・・・・と思ったら、エヴァ・グリーンはフランス人だった(笑)。2008年に公開された『ブラインドネス』が、視覚だけが失われるという感染症でパニックに陥る人々を描いていたけど、この作品の場合は嗅覚に始まり、味覚、聴覚、視覚の順に五感が失われていく中で、ユアン・マクレガー扮するマイケルと、エヴァ・グリーン扮するスーザンの男女の絆がどうなっていくかがテーマになっていて、パニック物というよりもむしろラブ・ストーリーに近い内容だと思う。R15+の視聴制限は、おそらく2人の濃厚なラブシーンのためだと思われる。
 五感を失っていくという症状の原因が何なのかは、不明のままで明らかにはされていない。が、この作品の場合、原因などは枝葉末節の話で、『コンテイジョン』のように最後に原因が明かされるようなこともない。なぜなら、これはパニックからの再起の物語などではなく、終焉へと向かっていく人類の物語で、そこには救いなど存在しないからだ。人々は次々と五感を失っていくことを知っていながらも、何らそれに抗う術もなく、ただ受け入れるしかない。これはフィクションであることを充分承知でもなお、身体に悪寒が走るような怖さを感じてしまう。下手なホラー映画を観るよりも、ある意味怖ろしい作品かもしれない。
 マイケルが嗅覚と味覚のプロとも言うべきシェフで、一方のスーザンが感染症学者という設定が、この作品自体の縮図になっているように思える。五感のうち嗅覚と味覚を失ってもなお、シェフであることをを諦めずに、新たな形で人々に食事を提供しようというマイケル。それは、五感のうち二感を失ってもなお、人間という生き物はそうたやすく生きることを放棄しない、そんな飽くなき生への執念の象徴であり、一方のスーザンは、五感が徐々に失われていくことはわかっていながらも、何の解決策も見いだすことがでずに手をこまねいているしかない。自然の摂理という大きな流れの中では、人間という生き物がいかにちっぽけで無力な存在であるかを思い知らされる。
 『キングダム・オブ・ヘブン』ではただキツイという印象しかなかったエヴァ・グリーンだが、この作品では彼女本来の柔らかな笑顔を見ることができる。最後の最後でマイケルと会うことができた時の、彼女の笑顔が印象的で忘れられない。