評 価
File No.
1548
製作年 / 公開日
2010年 / 2012年02月04日
製 作 国
アメリカ
監 督
マイク・ミルズ
上 映 時 間
105分
公開時コピー
「私はゲイだ」
父が75年目にして明かした真実が、
僕の人生を大きく変えた。
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最初に観たメディア
Theater
Television
Video
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キ ャ ス ト
ユアン・マクレガー
[as オリヴァー・フィールズ]
クリストファー・プラマー
[as ハル・フィールズ]
メラニー・ロラン
[as アナ]
ゴラン・ヴィシュニック
[as アンディ]
メアリー・ペイジ・ケラー
[as ジョージア・フィールズ]
キーガン・ブース
[as 少年時代のオリヴァー]
チャイナ・シェイバーズ
[as シャウナ]
カイ・レノックス
[as エリオット]
メリッサ・タン
[as リズ]
コスモ
[as アーサー(犬)]
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あ ら す じ
38歳独身のアートディレクター
オリヴァー・フィールズ
は、ある日突然父
ハル・フィールズ
から「私はゲイだ」とカミングアウトされる。それは44年連れ添った母
ジョージア
がこの世を去り、癌を宣告された父にとって、これからは本当の意味で人生を楽しみたいという告白であった。元々は厳格で古いタイプの人間だったハルだが、そのカミングアウトをきっかけに若々しいファッションに身を包み、パーティやエクササイズに精を出し、
アンディ
という若い恋人まで作って新たな人生を謳歌するようになる。
そんな様々な過去に戸惑うオリヴァーとは裏腹に、父の生き方はとても潔かった。父の振りまく愛に、周囲の人は素直に心を開き、また父も素直にその愛を受け入れた。身体は癌に冒され、確実に最期の日は近づいていたが、決して心は衰えることなく、今までのどんな時よりも前を向いて生きようとしていた。そんな父と語り合った母のこと、恋人のこと、人生のこと。オリヴァーはこの語らいの中で、父もまた親や母との距離において多くの葛藤を抱えながら生きていたことを知り、改めて自分自身の生き方を見つめ直していく。だがそんな時に、父との永遠の別れが訪れる。
父の変貌に戸惑いを隠しきれず、再び自分の殻に閉じこもってしまったオリヴァーを心配した仲間は、あるホームパーティにオリヴァーを無理やりに連れ出し、彼はそこで風変わりな女性
アナ
と出会う。人と距離を置きながら生きてきたアナは、父を亡くしたオリヴァーの喪失感を優しく癒し、オリヴァーはアナの優しさに心を委ねていく。まるで初恋の時のような強さでお互い惹かれ合っていく似た者同士の二人。幸せな日々が続いていたが、アナがオリヴァーの家で暮らし始めた頃から、何かが今まで通りにいかなくなり、またしてもオリヴァーは一人になることを選んでしまう。
昔のように愛犬アーサーと取り残されたオリヴァーだったが、父の最期の“教え”が彼の背中を強く押すのだった・・・・・。
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たぴおか的コメント
主人公の父親が、自らがゲイだとカミングアウトして・・・・・という内容からドタバタのコメディかと思っていたら、実はマイク・ミルズ監督の実体験に基づいた内省的な作品だった。そうと知っていれば、無理して仕事帰りに睡魔に襲われながら観ることはなかったのにと、ちょっと後悔。
現在、父親のハルが癌を宣告されてから、そしてオリヴァーの少年時代と、3つの時世時制が交錯するのだが、正直最初は状況に頭が追いつかずに、オリヴァーと母親の映像に「あれ?オリヴァーって既婚者で子供もいたのか?」なんて混乱してしまった。そして、私の理解不足のためかもしれないが、3つの時制のうちオリヴァーの少年時代の映像は必要なかったんじゃないかと思う。
とかく内向的でネガティブに見えるユアン・マクレガー扮する主人公・オリヴァーに対し、父・ハルのカミングアウト後の弾けっぷりは見事だ。おそらく人間は死に直面しなければ、自分の一生には終わりがあり、それまでに出来ることには限りがあることを知るのだろう。死を意識して初めて自分が生きていることを実感するとは皮肉なものだが、それだけ人は普段から“生きている”ことに慣れ過ぎてしまい、忘れてしまっているのだ。
そんな父親の変貌を目の当たりにしたオリヴァーが戸惑うのは、決して彼が内向的な性格だからではなく、至極当然な反応だ。父がゲイだったとすれば、母親とは仮面夫婦だったのか?そんな夫婦の間に生まれた自分は、一体何なのか?そんな疑問を感じずにはいられなかっただろう。そんな時にアナと出会ったことは、ひとつの天啓だったのかもしれない。そして、彼が今までと同じ道を歩むか、それとも今までとは違った人生切り開いていくのか、そんな人生の中でも数少ない極めて大きな分岐点なのだ。
アナとの関係が深くなって行くにつれ、オリヴァーは居心地の悪さを感じるようになるのだが、それはアナという鏡を通して、自分の真の姿と対面することに他ならないからだ。自分の嫌な部分から目をそむけて生きてきたオリヴァーにとって、それは相当な苦痛が伴うものであったことは容易に想像できる。そして、一度は以前の自分、心に波風を立てることもなく、その代わり誰かと接することによって得られる充足感や心地よさとも無縁な、そんな自分に逆戻りするという選択をしてしまうのだ。
以前の彼だったら、おそらくはそのままで終わってしまっただろう。しかし、残り少ない生を精一杯謳歌しようとしていた父ハルの姿が、オリヴァー彼の背中を押してくれたのだ。「虎は死して皮を残す」と言うが、ハルもまたオリヴァーに、百万言を費やしても伝えることのできない「生きる」という問いに対するひとつの回答を遺して逝ったのであり、それはオリヴァーにとって何物にも替え難い貴重な贈り物だったのだ。