評     価  

 
       
File No. 1554  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2012年02月18日  
       
製  作  国   アメリカ  
       
監      督   スティーヴン・ダルドリー  
       
上 映 時 間   129分  
       
公開時コピー   あの日父を失くした少年の、喪失と再生のものがたり  

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   トム・ハンクス [as トーマス・シェル]
サンドラ・ブロック [as リンダ・シェル]
トーマス・ホーン [as オスカー・シェル]
マックス・フォン・シドー [as 間借人]
ヴァイオラ・デイヴィス [as アビー・ブラック]
ジョン・グッドマン [as スタン(ドアマン)]
ジェフリー・ライト [as ウィリアム・ブラック]
ゾー・コードウェル [as オスカーの祖母]
スティーブン・ヘンダーソン [as ウォルト(錠前屋)]
ヘーゼル・グッドマン [as ヘーゼル・ブラック]
デニス・ハーン [as 司祭]
 
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あ ら す じ    オスカー・シェルとその父トーマス・シェルは、親子であると同時に、互いを対等に認め合った親友でもあった。利発で懸命な少年だが、繊細で他人と接することが苦手で、生きることに不器用だったオスカーを、父トーマスは個性を損なうことなく導いてくれていたのだ。そして、そんな2人を優しく見守る、母リンダ・シェル。そんな穏やかな日常が、突如として壊される出来事が起こった。2001年9月11日、ワールド・トレード・センタービルにいたトーマスは、同時多発テロの巻き添えで帰らぬ人となってしまったのだった。
 父の遺品の青い花瓶を誤って壊してしまったオスカーは、その中に入っていた一本の鍵を見つける。鍵が入っていた封筒には“BLACK”とだけ書かれていた。オスカーはこの鍵に父のメッセージが託されていると確信し、この鍵に合う錠前をみつけようと決心する。以来オスカーは母のリンダには内緒で、電話帳を頼りにニューヨークに住むブラックをしらみつぶしに訪ね始める。
 そんなある日、オスカーは祖母の部屋を訪ねると、祖母は留守で見知らぬ老紳士が彼を迎え入れた。間借人だと名乗るその老人は言葉をしゃべれず、筆談でオスカーと会話を交わし、オスカーのブラック探しを手伝おうと申し出てくる。こうしてその翌日から、オスカーは間借人と2人で、鍵穴を求めてブラックを訪ね歩くのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』だなんて、久しぶりに見る悪題だと思ったら、原題“Extremely Loud & Incredibly Close”の直訳で、しかもその原題も作品中に登場する主人公オスカー少年の調査探検日誌のタイトルだったことがわかり、一応納得。結局その意味(何がうるさくて、何があり得ないほど近いのか)はわからず仕舞だったのは少々釈然としないものの、作品自体は観ている者の引き込み方が上手く、深夜11:30からの上映回で2時間余りの尺にも関わらず、最後まで眠気も感じさせない佳作だったと言っていい。
 トム・ハンクスとサンドラ・ブロックという、アカデミー主演男優賞・主演女優賞に輝いた俳優の共演の割には、その点が強調されていないのは、ひとえに2人の息子オスカーを演じたトーマス・ホーン君に注目が集まったためだろう。映画デビューにして初主演でこの演技とは、驚くべき才能の持ち主だ。そして、私個人の独断で言わせてもらうならば、トーマス・ホーン君はオスカー主演男優賞にノミネートされてもおかしくない、両オスカー男優・女優を相手に全く見劣りすることのない堂々たる演技を見せてくれたと思う。残念ながら、作品賞と助演男優賞のみのノミネートだったが、恐ろしいまでの将来性を感じさせる少年だ。
 一言も喋らずにアカデミー助演男優賞にノミネートされたのが、間借人を演じたマックス・フォン・シドーだ。言葉はなくとも、その身振り手振りから感じられる優しさと安心感が、妙に心地いい。他人と接するのが苦手なオスカーが、いとも簡単に馴染んだのも納得できる老獪な演技だった。ちなみに、先日の『人生はビギナーズ』のクリストファー・プラマーにこの作品のマックス・フォン・シドーと、今年はご老体世代(失礼!)の頑張りが目に付く。「まだまだ若いモンには負けんよ」ってな感じのご活躍には、正直恐れ入りました。
 非常に賢くて歳の割にはませている、そんなオスカー少年だが、残念ながら頭でっかちでやはりまだまだ子どもで、平気で人を傷つけるような言葉を吐く。母親に対して「ママがあそこ(ワールド・トレード・センタービル)にいれば良かった」だなんて、その言葉を聞いたリンダがどれほど傷つくかなんてお構いなしの、痛烈なことこの上ない台詞だ。それに対するリンダの「私もそう思う」という言葉からは、息子にそこまで言わしめた現状に対する苦しみと、それでもなお息子を愛してやまない母親の痛ましいまでの思いが感じられる・・・・・と思ったのはそれからしばらくの間だけで、やがて訪れるクライマックスでは、リンダの意外な真実が明らかにされる。
 母はすべてお見通しだったのだ。これにはオスカー同様に観ていた私も全く気づかなかずに、ただ唖然とするばかりだった。そこまでの愛情を注ぐことができるのは母親特有の強さからであり、そんな彼女の思いがあったからこそ、オスカーの鍵穴探しの旅も成り立っていたのだと、深い感銘を受けた。そして、サンドラ・ブロックという女優を息子に拒絶される母親という地味な役柄で起用した意図も、その時ハッキリと見えてきたような気がした。