評     価  

 
       
File No. 1561  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2012年03月02日  
       
製  作  国   アメリカ  
       
監      督   スティーヴン・スピルバーグ  
       
上 映 時 間   146分  
       
公開時コピー  
2012年春
スピルバーグ監督が「希望」を描く。
 

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   ジェレミー・アーヴィン [as アルバート・ナラコット]
エミリー・ワトソン [as ローズ・ナラコット]
デヴィッド・シューリス [as ライオンズ]
ピーター・ミュラン [as テッド・ナラコット]
ニエル・アレストリュプ [as エミリーの祖父]
トム・ヒドルストン [as ニコルズ大尉」]
パトリック・ケネディ [as ウェイバリー中尉]
デヴィッド・クロス [as ギュンター]
ベネディクト・カンバーバッチ [as ジェイミー・スチュワート少佐]
セリーヌ・バッケンズ [as エミリー]
ロバート・エムズ [as デヴィッド・ライオンズ]
エディ・マーサン [as フライ軍曹]
ニコラス・ブロ [as フリードリッヒ]
ジェフ・ベル [as サム・パーキンス軍曹]
レオナルド・キャロウ [as ミヒャエル]
 
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あ ら す じ    第一次世界大戦前夜のイギリスの農村。農耕馬を買う目的でオークションに参加したテッド・ナラコットは、1頭の若く美しいサラブレッドに心を奪われて、その馬を高額な値を付けまでも競り落とす。帰宅すると妻ローズ・ナラコットには非難されたが、息子のアルバート・ナラコットは自分が責任をもって調教すると言い放った。そして、“ジョーイ”と名付けられたその馬とアルバートは、調教を通じてかけがえのない絆を築き上げていく。
 やがて、ドイツがイギリスに宣戦布告し、第1次世界大戦が始まる。ジョーイは英国軍の軍馬として売られてしまい、フランスの戦地に送られていった。アルバートはジョーイを探すため、徴兵年齢に満たないにもかかわらず入隊し、最前線フランスに向かう。ジョーイは死と隣り合わせの過酷な日々の中、軍馬を誰よりも大切にするイギリス人将校ウェイバリー中尉、ドイツ軍を脱走した少年兵の幼い兄弟、両親を失ったフランスの少女エイミーとその祖父らと巡り合う。過酷な運命に立ち向かう人々との出会いと別れを繰り返しなら、やがてジョーイは彼らの希望となり、“奇跡の馬”と呼ばれるようになるのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    本国アメリカでは、この作品と『タンタンの冒険★ユニコーン号の秘密★』が同日に封切りになったらしい。一方はパフォーマンス・キャプチャー&最新の3D技術が駆使されたアニメーションで、他方はCGの使用を極力抑えた重厚な作品で、こういった両極端とも言うべき作品を同時に撮ってしまうのは「さすがスピルバーグ」と感心すべきか、それとも二兎を追うような欲張りさに呆れるべきだろうか。
 そのためか、この作品は細部にまで及ぶような細かな作りが省かれているように感じた。最近ではドイツ語やフランス語などの他国の言語を使用する場合に、字幕を使ってまでリアリティを強調するケースが多い中、この作品では第一次世界大戦で敵国であったドイツ兵がしゃべるのが英語というのがその典型だ。おかげで、第一次大戦じゃなくて、まるでイギリスの内戦を観ているような感覚に陥ってしまう。また、いくら白旗を掲げているとはいえ、ドイツ兵がイギリス兵と協力して一頭の馬を助けるなんてことも非現実的だ。まぁ、原作が児童文学だから、そういう美談も許されるのだろうな。ただ、動けなくなったジョーイを呼び寄せるために、イギリス兵が一斉に舌打ちや指笛を鳴らすシーンでは、さすがに場内からはクスクス笑いが。そして極めつけは、ジョーイを助けるためにドイツ陣営からワイヤーカッターが一斉に投げられるシーンで、もうこれは爆笑ものだった・・・・・って、この映画、コメディ作品じゃないはずだよね?(笑)
 私は基本的に動物が登場する作品には弱く、それが仕向けられているとわかっていながらも涙腺を刺激されてしまうタチなのだが、この作品も例に漏れなかった。ジョーイが有刺鉄線に絡まって動けなくなるシーンでは、そのあまりの痛々しさは観ていて辛くて仕方ない。予告編では戦場から逃げ去るジョーイが、有刺鉄線の柵を軽々と跳び越える映像があったのに、本編では残念ながらジョーイは最後まで障害物を跳び越えることはなかった。予告編のあの映像は一体何だったんだろうか?
 人間同士が傷つけ合う戦争の悲惨さ、だがしかしそれは人間が自分で蒔いた種で、ある意味自業自得でもあるから、戦争で人が死んでいくシーンを観ると悲惨さと同時に間の愚かさを痛感させられるものだ。ところが、そこに動物が絡むと途端に冷静ではいられなくなる。馬立が自ら好き好んで戦争に参加したなどというはずがなく、あくまで無理矢理戦場に連れてこられたのだ。そんな馬たちが次々と敵兵によって殺されていくシーンや、馬を大砲を運ぶ道具のように使い捨てにするシーン。それは人間の万物の霊長たる思い上がり以外の何物でもなく、最も恥ずべき傲慢さだ。馬は文句を言いたくても言う術をもたず、逆らうこともできないのだ。これが悲しくなくて、一体何が悲しいというのか。
 救いなのは、そんな人間の愚かさだけでなく、人が持つ優しさも同時に描かれていることだ。アルビーから馬を奪ったが、最大限にアルビーを思いやる心遣いを忘れないニコルズ大尉、ジョーイを解放したドイツ兵、ジョーイがアルビーの馬と知って全力で治療する軍医、そして、100ポンドという大金を払って競り落としたジョーイをあっさりとアルビーに譲ってしまう(ちょっと無理があるが)、エミリーの祖父。軍人であれ庶民であれ、個々の人々は実は戦争という大きな時代の流れに飲み込まれた囚人のようなもので、戦争という異常事態が本質は善良な人間の心理状態を狂わせてしまうのだろう。真の悪は戦争を闘う人間ではなく、戦争を引き起こしたほんの一握りの人間たちなのだ。