評     価  

 
       
File No. 1573  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2012年03月24日  
       
製  作  国   アメリカ  
       
監      督   ジェフ・ニコルズ  
       
上 映 時 間   120分  
       
公開時コピー   誰も気づかない、
誰も信じない
この恐怖は
悪夢か、現実か
 

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   マイケル・シャノン [as カーティス]
ジェシカ・チャスティン [as サマンサ]
トーヴァ・スチュワート [as ハンナ]
シェー・ウィガム [as デュワート]
ケイティ・ミクソン [as ナット]
ナターシャ・ランドール [as キャミー]
ロン・ケンナード [as ラッセル]
スコット・ナイズレー [as ルイス]
ロバート・ロングストリート [as ジム]
キャシー・ベイカー [as サラ]
リサ・ゲイ・ハミルトン [as ケンドラ]
レイ・マッキノン [as カイル]
 
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あ ら す じ    その悪夢はある日突然始まった。田舎町の工事現場で働くカーティスは、耳の不自由な娘ハンナと妻サマンサと慎ましくも幸せに暮らしていたが、あるときを境に、毎晩のように悪夢に悩まされるようになる。最初の悪夢は、遠くに見える大嵐を予想させる不穏な雲に怯えた飼い犬がカーティスの腕に噛みつき、その痛みは目が醒めてからも彼の腕に残っていた。その日以来、カーティスは家内で飼っていた犬を、屋外に柵を作ってその中で飼うようになった。
 それからも、まるで車のオイルのような雨を浴びて正気を失った人に襲われる夢や、妻のサマンサがキッチンのナイフを手にした夢、あるいは親友で会社の部下でもあるデュワートにツルハシで襲われる夢を見たカーティスの日常は、夢の影響を受けて常軌を逸するようになってくる。妻に怯え、掘削の仕事でタッグを組んでいたデュワートを別の者と代えてもらうよう、上司に頼み込んだりするようになった。そして、次第にカーティスは精神的に孤立するようになっていく。
 近いうちに必ずや地球規模の天災が発生すると信じてやまないカーティスは、サマンサに黙って銀行から金を借り、コンテナを1台購入すると、家の近くに深く穴を掘ってコンテナを埋め、避難用シェルター作りに没頭し始める。しかし、家族や友人はまったく彼の行動に理解を示さず、むしろ不信感を募らせる一方だった。果たして、カーティスの常軌を逸した言動は哀れな妄想なのか、それとも本当に大嵐は訪れるのだろうか・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    つい先頃、『マシンガン・プリーチャー』でジェラルド・バトラー扮する主人公の親友を演じたのが記憶に新しい、名バイプレーヤーのマイケル・シャノンが主演し、2011年のカンヌ映画祭で批評家週間グランプリをはじめとする3冠を達成した作品。すべてを破壊する大嵐がやってくるという恐怖に囚われて、他のことには目もくれずに一心不乱に避難シェルターを作る男を描いた、異色のサイコ・スリラーだ。
 もはやマイケル・シャノンの演技は怪演と呼ぶに等しい、それほど完璧に役柄にのめり込んでいるのは、彼が実力派であることの証左だろう。元々個性的なマスクの持ち主である彼の鬼気迫る形相はタダモノじゃなく、作品中では彼が毎夜悪夢にうなされていたが、そんな彼を見た私も狂気の虜となった彼が登場する悪夢にうなされそうだ(笑)。そして、共演のジェシカ・チャスティンは、『ツリー・オブ・ライフ』では何の印象も残っていないが、この作品で初めて彼女がどういう女優なのかわかったような気がする。あのちょっととげとげしい印象を受けるルックスはどうしても好きになれないが、女優としての彼女は悪くないと思う。
 マイケル・シャノン演じる主人公のカーティスは、「嵐が来る」という強迫観念に囚われ、ますます深みにはまっていく。果たして、それが単なる強迫観念に過ぎないのか、それとも本当に嵐は訪れるのか、結末を観るまではそれはわからない。けれども、観ている者は否が応でもマイケル・シャノンの演技に引き込まれ、気がついたらいつ嵐が来るのかを心待ちにしている自分がいる。
 そんなカーティスを支える、ジェシカ・チャスティン扮する妻・サマンサの甲斐甲斐しさが、カーティスの異常な言動をさらに際立たせているのがいい。カーティスに言われるままにシェルターに避難し、これまたカーティスの言う通りにガスマスクを装着したサマンサは、決してカーティスに呆れていたわけでも、恐れていたわけでもない。すべては彼を愛し、彼自身の力で強迫観念から脱して欲しいと願うからで、シェルターの鍵を開けるシーンにみなぎる緊張感が心地いい。
 ラストシーンでは家族旅行に訪れた先で、ハンナが水平線に雲を見つけて嵐だというが、その時のカーティスの落ち着いたリアクションが、作品に微妙な余韻を残している。カーティスののその落ち着き払った態度は果たして、彼の明るい未来を暗示しているのか、それとも・・・・・。