評     価  

 
       
File No. 1622  
       
製作年 / 公開日   2010年 / 2012年06月23日  
       
製  作  国   スペイン / フランス  
       
監      督   アウグスティ・ビリャロンガ  
       
上 映 時 間   113分  
       
公開時コピー   大人たちの嘘が、
僕を悪魔にしていく。
 

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   フランセスク・コロメール [as アンドレウ]
マリナ・コマス [as ヌリア]
ノラ・ナバス [as フロレンシア]
ルジェ・カザマジョ [as ファリオル]
セルジ・ロペス [as 町長]
 
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あ ら す じ    まだスペイン内戦の傷跡が痛ましく残る1940年代。カタルーニャの山の中である日、11歳の少年アンドレウは血まみれになって倒れているディオニスとその息子クレットを見つける。クレットは「ピトルリウア・・・・・」という言葉を遺して息絶える。ピトルリウアとは、村に伝わる、洞穴に住む羽をはやした怪物の名前だった。現場の状況から殺人と断定した警察は、アンドレウの父ファリオルを容疑者とにらむ。鳥の鳴き声大会を開くため鳥を飼っているファリオルは、以前から政治的な活動により村人たちから快く思われていないのも合わさり、姿を隠すことにする。母フロレンシアは工場に働きに出ているため、アンドレウは祖母の家に身を寄せることになった。
 祖母の家に同じく身を寄せる、事故で左手を失った従妹のヌリアらとともに新しい学校に通い始めるアンドレウ。ヌリアは学校で、教師と関係を持っており娼婦の家系であると罵られていた。ある日、ヌリアが裸でベランダに立つところを偶然目にしたアンドレウは、ヌリアの秘密を共有することで連帯感を強める。屋根裏から気配を感じたアンドレウがヌリアから手渡された鍵で屋根裏部屋を開けると、そこには父が隠れていた。父が同じ屋根の下にいたことに驚くアンドレウ。突如警察が祖母宅に押し入り、父は裕福な農場主のマヌベンスに話すよう伝え連行される。その言葉通りにマヌベンス夫人に面会し父の無罪を訴えるアンドレウと母。マヌベンスは父のために町長宛に手紙を書いてくれたが、その手紙を届けに行くと、横恋慕していた町長は弱みにつけこみ母を手篭めにしようとする。
 さらに、ぼろぼろの姿で村をさまようディオニスの妻パウレタに出会ったアンドレウは、父がディオニスとともにマヌベンス夫人の弟と肉体関係を持ったマルセルという青年に、去勢という残酷な罰をくだした過去を告げられる。そんな中、いよいよ死を覚悟した父から、マヌベンス夫人への手紙を託されるアンドレウ。数日後、彼はマヌベンス夫人から学費援助の申し出があったことを知る。母の必死の擁護にも関わらず、遂に死刑に処せられてしまうファリオル。そして、さらにある事実を知り、あまりにも多くの人間の闇を見聞きしたアンドレウは、ある決断をするのだった・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    本国スペインでは数々の映画賞を総ナメした話題作のようだが、私にはこれがそれほどの作品だとは思えない。1940年代のスペイン内戦後という背景を理解していなかったせいもあるだろうが、それを踏まえた上でも今ひとつピンとこない、というのが正直な感想だ。
 オーディションで選ばれた主演のフランセスク・コロメールの猜疑心に満ちたような目と表情が印象的。その彼がコピーにあるように「僕を悪魔にしていく。」のでとあれば、一体どのような悪魔的な行動に走るのかと期待していたのだが、これが完全に空振り。あくまでこの作品はサイコ・サスペンスでもなければホラーでもなく、あくまでも極めて現実的なストーリーで、その点を踏まえていなかったのが私の最大の失敗だったようだ。
 ただ、登場するキャラクターが誰も一筋縄ではいきそうもない曲者揃いで、作品自体も全編が陰鬱な雰囲気に包まれている。片手の指を失い、教師に体を提供する美少女ヌリア、アンドレウの母フロレンシアに執拗に言い寄る町長、表面上は穏やかに装いながらも腹の中では何を考えているのかわからないマヌベンス夫人。おおよそ人間の闇の部分を寄せ集めたような人々に囲まれて、思春期のアンドレウ少年が受けた衝撃が大きかったであろうことは確かだ。けれども、すべてを知った彼の行動に悪魔的な意図はほとんど感じられない。唯一、学校に訪ねてきた母親を「荷物を届けに来ただけの人」とクラスメイトに紹介した程度だろう。
 子供というものは、自分の親だけは正しいという一種の偶像を抱くものだ。ところが、親には子供に理解できない、親なりの正義(それが正しいかどうかは別にして)があり、得てしてそれは子供が思い描いていた偶像を微塵に打ち砕いてしまうものなのだ。アンドレウは父の死後に父の真実を知るが、同時に父親が自分に嘘をついていたことを突きつけられて、受けたショックは計り知れないものがあったことだろう。そして、父親が嘘で真実を隠していたことが、彼の人格形成にどのような影響を与えたのかが気になるところだが、そこで物語は終わってしまうのが残念だ。