評     価  

 
       
File No. 1660  
       
製作年 / 公開日   2011年 / 2012年09月15日  
       
製  作  国   日  本 / カ ナ ダ  
       
監      督   岩井 俊二  
       
上 映 時 間   119分  
       
公開時コピー   惹かれあう孤独な魂たち
この世の果ての恋物語
 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
キ ャ ス ト   ケヴィン・セガーズ [as サイモン・ウィリアムズ]
ケイシャ・キャッスル=ヒューズ [as ゼリーフィッシュ]
アマンダ・プラマー [as ヘルガ]
トレヴァー・モーガン [as レンフィールド]
アデレイド・クレメンス [as レディバード]
蒼井 優 [as ミナ]
クリスティン・クルック [as マリア・ルーカス]
レイチェル・リー・クック [as ローラ・キング]
ジョディ・バルフォー [as ミカエラ]
 
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
あ ら す じ    男はある場所で“ゼリーフィッシュ”と名乗る女と待ち合わせた。見知らぬ者同志、共に死のうとしている。「最後の一日を最高の日にしたい」というゼリーフィッシュに、その男“プルート”は、穏やかに死ねるある特別な方法を試すことを提案する。「血を抜こう」と。そして、ゼリーフィッシュから抜いた血液の1本を早速口にするプルート。彼は人間の血液を糧として生きているヴァンパイアだったのだ。
 この男、サイモン・ウィリアムズは高校の生物学教師で、アルツハイマーの母親ヘルガとの2人暮らしだった。学校では自殺を考える日本からの留学生ミナに「死んではいけない」と説得する誠実な教師を演じているが、プライベートの彼は自殺サイトに接触して、血の提供者を探していた。自殺志願者の間では有名な存在で、“ブラッドスティーラー”または“ヴァンパイア”というハンドルネームで呼ばれ恐れられているが、せっかく飲んだ血は後で吐いてしまうし、他の殺人犯が女性を狩る姿を見てパニックになる、気の弱い男だった。
 ある日、サイモンは標的として選んだ“ラピスラズリ”という女性によって思いがけず集団自殺に巻き込まれる。辛くも生き残った“レディバード”という女性と迷いの森を脱出するが、その道中、自分がヴァンパイアであることを告白してしまう。後日、レディバードはサイモンに血の提供を申し出る。彼女はもう一度自殺したがっていたのだ。けれども、サイモンにはどうしてもレディバードを殺せなかった。そんなサイモンにレディバードは、いつでも自分の血をあげる代わりに、もう人を殺さないでと懇願するのだった。
 同じ頃、教え子のミナが自殺を企て、病院に駆けつけたサイモンは彼女に自分の血液を輸血せざるを得なくなる。そして、血を抜かれたサイモンが自宅に戻ってみると、そこには警察が待ち受けていた。彼を気に入り家に出入りしている警官の妹・ローラ・キングがサイモンの秘密を知ってしまい、通報したのだった。慌てて現場から走り去ろうとするサイモンだったが・・・・・。
 
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
たぴおか的コメント    岩井俊二監督がカナダでロケを行い全編英語で撮り上げた、ヴァンパイアと人間の女性のラブ・ストーリー。全編を通して静かに、あまりにも静かに展開する作品だ。オフィシャルサイトの解説には、主人公のヴァンパイア・サイモンは「気弱な男」とあるが、とても「気弱」という一言では語り尽くせない、複雑なキャラクターだ。そもそもサイモンはヴァンパイアなのに、人間の首筋に噛みついて血を吸ったことが一度もないという。それに、血液を飲んでもすぐ吐いてしまうとは、彼は本当にヴァンパイアなのか疑いたくなってしまう。もしかしたら、自分がヴァンパイアだと思い込んでいるだけで、実は違ったりして・・・・・なんて疑問がむくむくと頭をもたげてくる。
 その証拠に、彼は人間の食べ物を普通に食べることが出来るし、それもさも美味しそうにだ。今まで知るヴァンパイアであれば、人間の食べ物こそ食べてもすぐに吐いてしまうんじゃないだろうか。これがもし、自分がヴァンパイアだというのはサイモンの妄想だったとしたら、さらに面白いストーリーになったんじゃないか、なんて思う。だから血を飲んでもすぐ吐いてしまうし、それでもなおかつ血を求めずにはいられない、そんな男の悲劇の物語も悪くないんじゃないかな。
 日本からの留学生・ミナ役で蒼井優が出演しているのが、何だか唐突に感じる。岩井監督が生んだミューズとも言うべき彼女だからだろうが、この作品でも彼女は重要な役割を演じている。サイモンの教え子で、なんと自殺志願者なのだ。自殺志願者をサイトで募り血を求めるサイモンだが、生徒に対してはあくまで教師としてあるべき姿で接している。このあたりが彼の真面目さか、彼自身を孤独に苛む原因になっているのだろう。驚くのは、自殺を試みて失血状態に陥ったミナに対し、サイモンが自らの血液を輸血するのだ!人の血をヴァンパイアが摂るのが当たり前で、ヴァンパイアが人間に血液を提供するなんて本末転倒な状況は、もちろん初めて観た。  冒頭で登場するゼリーフィッシュを演じたケイシャ・キャッスル=ヒューズの儚げな雰囲気が印象に残っているが、どこかで観たような気がすると思ったら、2007年のハズレ作品『マリア』で聖母マリアを演じた女優だった。また、サイモンの唯一の理解者となったレディバードを演じたアデレイド・クレメンスの可愛さも、この作品では見逃せないポイントだ。