評     価  

 
       
File No. 1777  
       
製作年 / 公開日   2013年 / 2013年04月13日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   石井 裕也  
       
上 映 時 間   133分  
       
公開時コピー   マジメって、面白い。  

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   松田 龍平 [as 馬締光也]
宮ア あおい [as 林香具矢]
オダギリ ジョー [as 西岡正志]
黒木 華 [as 岸辺みどり]
渡辺 美佐子 [as タケ]
池脇 千鶴 [as 三好麗美]
鶴見 辰吾 [as 村越局長]
宇野 祥平 [as 宮本慎一郎]
又吉 直樹 [as 戸川]
浪岡 一喜 [as 編集者]
森岡 龍 [as 江川]
斎藤 嘉樹 [as 小林]
麻生 久美子 [as ポスターの女優]
伊佐山 ひろ子 [as 佐々木薫]
八千草 薫 [as 松本千恵]
小林 薫 [as 荒木公平]
加藤 剛 [as 松本朋佑]
 
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あ ら す じ     大手出版社の玄武書房の辞書編集部では、見出し語が24万語という新しい辞書『大渡海』の編纂が行われていた。そして、ベテラン編集者で辞書編纂の要とも言うべき荒木公平が定年退社するに当たり、彼に代わる人材の確保が必要となった編集部が目をつけたのは、営業部に勤務する馬締光也だった。
 真面目すぎて職場で少々浮いていた馬締だったが、言葉に対する卓越したセンスを持ち合わせていることが評価され、辞書編集部へ異動となる。編集部では、監修の松本朋佑を筆頭に、荒木、若手先輩社員でお調子者の西岡正志、そしてベテランの女性契約社員の佐々木薫という曲者揃いの辞書編集部の中で、馬締は作業にのめり込む。
 ある日、下宿人は馬締ひとりしかいないという彼の部屋の隣に、新たな入居者がやってくる。家主のタケの孫娘で、板前修行中の林香具矢だった。そして馬締は、一目で香具矢に恋に落ちてしまう。なんとかして自分の思いを彼女に伝えたいが、なかなかふさわしい言葉が出てこず苦悩する。
 そんな中、会社の方針が変わり、『大渡海』の編纂が中止になるという噂が立ち始める。その噂の出所が村越局長であることを知った西岡と馬締は、村越に直訴して『大渡海』の編纂中止の撤回を勝ち取るが、交換条件として村越はある無理難題を突きつけてくる・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    当初はこの週末(4/13〜4/14)に観る予定から外れていた作品だが、14日が東宝の日で全作品1,000円になることを思いだし、急遽劇場へ行くことにした。そして、得てしてこういう作品に限って面白かったりするのだが、この作品もまさにその典型的な例のひとつだろう。
 “舟を編む”と言う言葉が「辞書を編纂する」という意味だなんて、この作品に触れるまでは知る由もなかった。まして、辞書を作ることがどういう工程をを経て行われるのかなど、何の予備知識も持ち合わせていなかった。だから、この作品に描かれた“大渡海”の編纂作業を観せられると、それは驚きの連続で、想像を絶する作業であることがよくわかった。
 松田龍平演じる主人公の馬締光也は名前の通り生真面目な男で、言葉に対する造詣も並ならぬものがあるのだが、それだけでは辞書編纂という大事業は成し遂げられないことがよくわかった。必要なのは、地道な作業を重ねていく根気と忍耐力と強い意志であり、私のように何かにつけて横着をしたがるような人間には到底無理。そして、その根気や忍耐力を支えるものは、言葉に対する真摯な思い、言葉に対する情熱なのだ。
 定年を迎える小林薫扮する荒木の抜けた穴を埋めるための人材をテストするのに使われる、「右を説明できるか」という課題が面白い。私なんかはついつい「箸を持つ手」と答えてしまいそうだが、それじゃ当然不合格。左利きの人間には当てはまらないからだ。それに対して、馬締の答え「西を向いた時北に当たるのが右」というのは、実に的確な回答だ、ただ、それだと今度は方位を説明するのに右・左が使えなくなり、事実作品中でも堂々巡りになってしまっている。また、大辞林か広辞苑かで、辞書を開いた時の“偶数ページの側”と“奇数ページの側”で説明していたが、「右」という基本的な概念の説明に「偶数・奇数」という難易度の高い言葉を使うのも不適切に思える。相手が「偶数・奇数」を知らない子供だったら、それじゃ説明にならないから。その意味では、加藤剛扮する松本の「数字の10のゼロがある側」という説明が実に端的に「右」を表現していると感心させられた。「奇数・偶数」は知らない子供でも数字の10はわかるはずだからね。
 それにしても、辞書を作り上げるということが、まさにそれに携わる人にとってライフワークともなる大事業なのだが、それで驚いちゃいけない。てっきりゴールだと思っていた辞書の完成は、実はスタートなのだ。言葉は常に変遷する生き物のようなもので、辞書を世に出すと同時に改訂作業が始まり、それは決して終わることはない。だからこそ、言葉に対する飽くなき情熱が必要なのだ。
 私は、松田兄弟では、どちらかと言えば弟の翔太の方が俳優としては好きだが、この馬締めのような役柄は兄の龍平にしかできないだろう。そんな馬締の相手役の香具矢を演じるのは、おそらく『NANA』以来の共演だと思われる宮アあおい。いつも通りの見慣れた彼女の演技なのだが、やっぱり何度観ても彼女には惹かれてしまう。そして、馬締の先輩の西岡を演じるのは、相変わらず髪型が変な(笑)オダギリジョー。この作品で初めて彼の演じるキャラクターに好感が持てたのは収穫かもしれない。また、麻生久美子がポスターの女優役でカメオ出演していたのようだが、それに全く気付かなかったのは悔しい限りだ。