評     価  

 
       
File No. 2153  
       
製作年 / 公開日   2014年 / 2015年01月17日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   李 闘士男  
       
上 映 時 間   107分  
       
公開時コピー   笑う門には大富豪来たる  

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   堤 真一 [as アニキ]
尾野 真千子 [as 照川祥子]
ナオト・インティライミ [as 杉田]
菜々緒 [as 香奈]
玉木 宏 [as リュウ]
 
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あ ら す じ    インドネシア、バリ島。婚活ビジネスに失敗し借金を背負った照川祥子は、人生を捨てるためにこの島へとやってきた。そこで謎めいた日本人のリュウに声をかけられ、導かれるままアニキと呼ばれる男と出会う。パンチパーマ、眉なし、太いゴールドネックレス、“Aniki”と書かれたTシャツ、センスも品も知性もなさそうないかがわしい中年男アニキ。大富豪のイメージとかけ離れたアニキは、不動産ビジネスで成功した大金持ちだという。
 借金を返して人生をやり直したい祥子は、アニキから“お金持ちになるためのコツ”を学ぶため弟子入りすることになる。だが、「失敗したときこそ笑え」、「ダジャレは頭の回転を早くする」、「毎日お祈りしろ」という教えから、豪邸でのトイレ掃除、笑顔と挨拶の訓練、お供え物への配慮といった実践まで、金持ちになるには程遠い修行にうんざりする祥子。アニキとリュウに借金に至る経緯を尋ねられた祥子は、「周りのせいで会社が潰れた。自分は頑張っているのに報われない」と大富豪との格差を感じ八つ当たりをしてしまう。だが「周りのせいにしてばっかりやから会社を潰したんちゃうの?」とアニキはすべてお見通しだった。
 一方でリュウは、アニキに影響を受け自分を変えたという。人生をナメていた彼は、アニキと出会ったことで日本でのエリート医師としての未来を捨て、ボランティアで子供たちの目を診る眼科医の道を選んだ。さらに、人生に血迷うストーカーめいた杉田という男が祥子を追いかけ日本からやってくる。杉田はアニキの自己満足的な振る舞いに反発を示すが、やがて人間力に惹かれ自分を解放していく。 祥子への指導をしながらもアニキは、バリの子供たちのために幼稚園を作ることに夢中になっていた。しかしある時、信用していた部下のアデがアニキを裏切る事態が起こる。裏切られたことと幼稚園建設が暗礁に乗り上げたこととで、アニキは精神的なショックを受ける。アニキ最大のピンチに祥子たちは・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    これが実話を基にした作品だとは、にわかには信じ難い。バリで大成功を収めた日本人がいるというだけならば、まだそうかもしれないと思う。そして、バリの大富豪がまさか日常スーツを着用しているとも思えない。だが、堤真一演じるアニキのあのTシャツにゴールドのネックレス、加えてあのルックスはどう見ても胡散臭いことこの上ない(笑)。そして、堤真一はこういう破天荒な役柄を演じさせると抜群だ。
 確かにアニキは胡散臭いし、見た目はヤクザと間違われても仕方ない。が、彼の周囲の人たちを見ていると、アニキが人間的にも優れた人物であることがわかるはず。彼は力に訴えることも金に物を言わせるような真似もしていないが、周囲の人々は自然と彼の周囲に集まってくる。これは間違いなく、アニキ語録の「信用は金では買えない」「一度出来た縁は絶対に大切にする」を実践した賜であることは疑う余地がない。金や力で従わせた人間は、金や力を失ってしまえば瞬く間に離れて行ってしまう。けれども、アニキの周囲にいる人々は、たとえアニキが無一文になっても彼から離れることはないだろう。そして、困った時、苦しい時に支えになってくれるのは、間違いなくそういった人たちなのだ。
 尾野真千子のコメディエンヌぶりを初めて見たが、彼女の変顔をあれほど見せつけられるとも思ってなかった。「これ、本当に尾野真千子なのか?別人が吹き替えてるんじゃないの?」なんて思ったほどだ。そして、彼女が演じるバリに訪れた時の照川祥子は、おそらく日本で暮らす日本人の典型的なタイプで、誰もが少なからず彼女と同じように日々の暮らしに喘いでいるのだ。
 こんなコメディ作品を観て珍しく感銘を受けた私は、バリのアニキのようにおおらかに生きることがいかに大切かを改めて思い知らされた。「失敗した時こそ笑え」(これはこの作品だけじゃなく、あちこちで耳にするセリフだ)や「一番大切なのは人、仲間だ」なんていうアニキ語録は至言だね。けれどもその反面、日本で彼のような生き方、考え方を貫き通すこととがいかに困難かをも痛感した。おおらかな自然と素朴な人々、そして緩やかに流れる時間の中でこそアニキのような生き方は可能なのであって、世知辛い日本では世間から取り残されてしまうかもしれない。
 ただ、これを観たら私ほどではないにしても、今までの自分の生き方と照らし合わせて、何か考えるところがあるはずなのは確かだ。アニキ語録に共通するのはあくまでもポジティブ・シンキング、後を振り返るよりも前を向く、そのことがいかに大切かつ困難なことなのかを改めて見せつけてくれたこの作品、観終えた後の爽快感は格別だった。