評     価  

 
       
File No. 2924  
       
製作年 / 公開日   2017年 / 2019年01月11日  
       
製  作  国   イギリス  
       
監      督   ジェームズ・マーシュ  
       
上 映 時 間   101分  
       
公開時コピー   このままでは帰れない
愛しているから。
 

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   コリン・ファース [as ドナルド・クローハースト]
レイチェル・ワイズ [as クレア・クローハースト]
デヴィッド・シューリス [as ロドニー・ホールワース]
マーク・ゲイティス [as ロナルド・ホール]
アンドリュー・ブキャン [as イアン・ミルバーン]
ジョナサン・ベイリー [as イアン・ホイーラー]
サイモン・マクバーニー [as サー・ブランシス・チチェスター]
ケン・ストット [as スタンリー・ベスト]
エイドリアン・シラー [as Mr.エリオット]
 
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あ ら す じ    20世紀も半ばを過ぎた1968年、海洋冒険ブームに沸くイギリス。もはや地上に冒険する場所などないとされ、アメリカやロシアでは宇宙開発が盛んになっている時分、イギリスのサンデー・タイムズ社は大胆なやり方で偉大な冒険の記録を更新しようと、ゴールデン・グローブ・レースの開催を決定する。
 1人乗りのヨットに乗り世界を一周するヨットレースで、およそ9か月間一度も港や街にヨットを寄港してはいけないという過酷なレースである。名のある冒険家たちが名乗りを上げる中、1人の無名の男がレースの参加を表明する。男の名はドナルド・クローハースト。イギリスの船舶用測定器の会社を経営するドナルドは、ヨットに乗るのが趣味であった。
 日曜大工ならぬ、日曜ヨット乗りが名のある海のプロたちを相手に過酷なレースに参加するとあってスポンサーが殺到し、レースは異様な盛り上がりを見せる。愛する妻クレアに5,000ポンドの賞金を、幼いドナルドの3人の子供たちに名誉を贈るため、ドナルドの挑戦が始まる・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    タイトルから察するに、無名のヨットのド素人が世界一周レースで見事優勝した、そのサクセス・ストーリーだと勘違いした向きは少なくないだろうが、何を隠そう私もそのうちの一人だ。昨年暮れの『イット・カムズ・アット・ナイト』はタイトルが内容と真逆なことに不快感を覚えたが、この作品の場合は・・・・・確かに誤解させる邦題ではある。『〜風に乗せて』なんてあると、いかにも素晴らしい結果を想像しがちだが、実際にはコリン・ファース演じる主人公ドナルドは、現実には喜望峰にすら到達していないのだから。
 実際の海の上は、経験してみなければわからない様々な困難が待ち受けているのだが、そこはレース未経験者の陥るべくして落ちた陥穽で、彼には希望的観測しかなかったのだ。そして、海の厳しさ・恐ろしさを身をもって味わった時にはすでに引っ込みが付かなくなっている。だったら、なぜその時点で正直に自分の見込が甘かったことを認めて、潔くリタイアできなかったのか。それが許されるのは、参加者の中ではただ一人素人だったドナルドにのみ与えられた特権だったはず。
 なのに、彼の選択肢はそうじゃなかった。それどころか、虚偽の報告をするという、いわば自らの退路をすべて断つような暴挙にでたのだ。そんな選択をせざるを得なかったのか、あるいは、他に選択の余地があったのにそうしなかったのか。おそらくは、その時点に及んでもまだなお、彼の見通しが甘かったのではないだろうか。言い換えれば、その時の彼の頭の中には、まだ「死」という単語が浮かんでおらず、「何とかなるはず」というオプティミスティックな考えが占めていたように思えてならない。
 航海中の描写を観ていると、『白鯨との闘い』や『ライフ・オブ・パイ』のシーンが次々と想起される。いずれも、生か死かのギリギリを描いたものであって、それは海という大自然を相手にした闘いがいかに危険であるかの証左でもある。この作品は、海をとことん甘く見た男の結末を描いた悲劇・・・・・いや、見方によればむしろ喜劇かもしれない。それはすべてドナルド自らの選択がもたらした結末であって、可哀想だが同情の余地はないと思う。ただ、捨てることも可能だった航海日誌を白日の下にさらす決意をした、その選択だけは大きな英断と言える。 最後を悟った彼は、ついに自らの名誉や保身を総てかなぐり捨てることができたのだろう。彼が思ったのは、もはや自分のことなどどうでもいい、ただ遺された家族のことだけだった、そうであって欲しい。
 これをもって、神の、そして大衆の“THE MARCY
慈悲、あるいは
容赦が、遺された彼の妻や子どもたちに降り注がれんことを願う・・・・・なんてね。