評     価  

 
       
File No. 3010  
       
製作年 / 公開日   2019年 / 2019年05月31日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   中野 量太  
       
上 映 時 間   127分  
       
公開時コピー   だいじょうぶ。
記憶は消えても、
愛は消えない。
 

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   蒼井 優 [as 東芙美]
竹内 結子 [as 今村麻里]
松原 智恵子 [as 東曜子]
山崎 努 [as 東昇平]
北村 有起哉 [as 今村新]
中村 倫也 [as 磐田道彦]
杉田 雷麟 [as 今村崇]
蒲田 優惟人 [as 今村崇]
 
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あ ら す じ    かつて中学の校長まで勤め上げた厳格な元教師・東昇平が、認知症と診断される。そんな父・昇平の70歳の誕生日に、久しぶりに集まったアメリカ暮らしの長女・麻里と次女の芙美は母・曜子からその事実を告げられて、動揺を隠せなかった。
 近所に住む芙美は、カフェを開く夢を抱いて奮闘しながらも、思うようにいかない恋愛に悩む日々。一方、夫・今村新の仕事の都合で日本を離れている麻里は、いつまでたっても現地の生活に馴染めず、思春期の息子・のことが気に掛かっていた。
 そんな中、徐々に記憶を失っていく昇平が引き起こす予測不能のアクシデントに振り回されていく妻と娘たちだったが、家族の誰もが忘れていた思い出が、昇平の中で息づいていることがわかり・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    私の母親がやはり認知症を患っていることもあって、ちょっと観るに忍びないような思いを半分抱えながらも劇場へ。驚いたのは、キャパが100名ほどの地元のTOHOシネマズでは小さめなスクリーンで、公開2日目にもかかわらず8割以上の席が埋まっていて、しかも客層は大半が主人公の東夫妻と同世代の70代以上で占められていて、10代〜30代という若年層の観客はパッと見ひとりもいないという、未だかつてない高齢者の集まりと化していたのだ。
 母が認知症を発症してすでに8年ほどが経過しているが、自力歩行はできないものの身体が元気なのは幸いで、今は施設で暮らしている。発症したての頃は、私が実家に行くと「知らない人がいて怖い」とこっそり耳打ちしてきたものだ。その知らない人とは父親のことで、あろうことか最も長い時間を過ごしてきた伴侶のことを最初に忘れてしまったらしかった。そして、この映画の山崎努扮する東昇平と同じで、夕食を終えると「そろそろ帰ります」。「帰る家はここだよ」と説き伏せても聞き入れないから、どこに帰るのかと尋ねると、生まれ育った京都・山科の実家(ちなみに今は建て替えられて、母の弟の息子(= 私のイトコになる)夫婦が暮らしており、当時の家は跡形もない)のようだった。私は車で実家に立ち寄っていたのだが、帰る時には毎回「ちょっと乗せていって」「どこまで?」「京都まで」。「京都まで車で行ったら、片道8時間くらいかかるよ」と言っても、本人は10分くらいで帰れると思っていたようで、「仕方ない、歩いて帰る」というのを制止するのに苦労したことを覚えている。
 今でこそ車椅子生活となってしまったが、その頃は身体も元気で頻繁に徘徊を繰り返した。父親が買い物に行ったりしたちょっとの隙に家を出て、一晩中見つからないことも何度かあった。そのため、玄関のドアに内側から開けられないよう鍵を追加したりして。当然、今ではもう父はもちろん、私のことも妹のことも誰なのかわかっていない。ただ、記憶のどこかに知っている相手だということは残っているようで、赤の他人と話すのとは違うのがせめてもの救いだ。
 そんなことから、私にとって認知症は決して他人事じゃなく実に切実な問題なのだ。この作品のクレジットを見ると蒼井優が主役のようで、彼女の気持ちや苦労には共感できるところが実に多かった。事業を始めても上手く起動に乗らず、幼馴染みといい仲になりそうで結局は駄目、そして父親は認知症がだんだん酷くなっていく。松原智恵子扮する妻の曜子が元気だからいいようなものだが、その点でも私の場合には父がまだ元気だから助かっているのと共通している。そう言えば、網膜剥離じゃないけど、私の父も先日白内障の手術をしていて、偶然にしてはあまりに似通った話だと思わずにはいられなかった。
 認知症の昇平を演じた山崎努の、本物の認知症患者であるかのようなさすがの演技には頭が下がる。口を“へ”の字に結んだ不機嫌そうな顔が、まさに私の母のそれと同じでコワいくらいだ。彼の演技が上手ければ上手いほど、余計に母を思い出して辛くなった。