評     価  

 
       
File No. 3021  
       
製作年 / 公開日   2018年 / 2018年06月14日  
       
製  作  国   デンマーク / フランス / スウェーデン  
       
監      督   ラース・フォン・トリアー  
       
上 映 時 間   152分  
       
公開時コピー   ゾッとするほど、魅力的。  

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   マット・ディロン [as ジャック]
ブルーノ・ガンツ [as ヴァージ]
ユマ・サーマン
シオバン・ファロン・ホーガン
ソフィー・グローベール
ライリー・キーオ
ジェレミー・デイヴィス
 
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あ ら す じ    ジャックは謎の男・ヴァージヴァージとの会話で、自らのおぞましい過去を5つの出来事で象徴すべく語り始める。
【第1のインシデント】
 
冬の雪道でのこと。赤いバンを走らせていたジャックは、道の途中で車が故障し立ち往生していた一人の女性と出会う。女性は、修理のために使用していた自分のジャッキが壊れてしまい、修理をジャックに懇願する。困惑するジャックは最寄りの鍛冶屋でジャッキを直すよう告げると、女性はズケズケとジャックの車に乗り込み、彼の紹介する鍛冶屋へ向かうことを強要する・・・・・。
【第2のインシデント】
 
とある山中に住む未亡人の家。ジャックは警察官を装い家に入り込もうとするが、女性はジャックの言動とバッジを見せようとしない態度を不審に思い、家に入れようとしない。しかしジャックは、警官だというのは嘘で本当は保険調査員だと語り、年金の増額に関する情報があるという様子を見せ、ようやく女性はジャックを家の中に導き入れると・・・・・。
 こうして次々とジャックは過去の出来事を語っていき、ついには第5のインシデントにたどり着く。それは、冷凍倉庫で人生最大の大量殺人を図るシーンだったが、その達成のためという必要に迫られ、これまで開けられることのなかった冷凍倉庫奥の扉をこじ開ける。ちょうどそのころ、外ではジャックの犯罪を知った警察が倉庫までたどり着いており、ジャックはついに逃げ場を失う。しかしその時、部屋の奥から一人の男性の声が聞こえてくる。
 部屋の照明をつけると、そこには一人の男性の姿が。男はヴァージと名乗り、静かに椅子にたたずんでいた。果たして彼の正体は?そしてジャックの運命は・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    2018年のカンヌ国際映画祭でプレミア上映された際、100人以上が途中退席したという曰く付きの作品。あの、私には道徳や常識を全てかなぐり捨てたとしか思えない『ニンフォマニアック』のラース・フォン・トリアー監督作で、しかも尺が152分という長さのため、覚悟を決めて臨んだ作品だったが、予想していたよりはおとなしめの作品で、ホッと胸をなで下ろした。とはいうものの、残忍なシーンが目白押しで、「よくこんなこと思いつくなぁ」と呆れかえる。私が最も見るに堪えなかったのは、水鳥のヒナの片脚をハサミで何の躊躇いもなく切り落とすシーンだったが、さすがにエンド・クレジットでは「この映画を制作するに当たって動物には一切危害を加えていない」旨の字幕のエクスキューズがあった。
 主人公ジャックと、画面には登場しない正体不明の男・ヴァージの対話でストーリーは展開して、5つのインシデントを振り返る形で見せるという構成になっているこの作品。このヴァージが何者なのか気になるところだが、作品が進むにつれてそんなことはどうでもいいと思えてくる。だから、ラスト近くになってヴァージが姿を現したのは意外だったが、演じるのがあの名優ブルーノ・ガンツっだったことはさらに意外だった。
 私が好きな女優キルステン・ダンストが主演だったからと言うワケじゃないが、『メランコリア』は極めて常識的な作品だったのに対し、次に観た『ニンフォマニアック』ではもう茫然自失、これほどいい意味でも悪い意味でもこの作品を上回る異常な作品に出会うことはないだろう、そんな強烈なインパクトで私を打ちのめしたラース・フォン・トリアー作品。今回の『ハウス・ジャック・ビルト』は、内容はともかくとして、比較的とっつき易い、と言うか、理解しやすい作品だろうとは思う。そして、その内容はといえば、残念ながら私はこれを誰かに観るようにお勧めできるほどの度量を持ち合わせていない、ということからも察しを付けていただきたい。ただ、前作『ニンフォマニアック』の常識破りの過激な性表現と比較すれば、そして、これを一種の過激にグロいホラー映画として考えるなら、おとなしい部類だと思っていい。事実、私はこれを上回る過激さを覚悟していたから。
 この作品の主人公ジャックが、通常の人間の持つ倫理観や道徳観あるいは善悪の判断基準に欠けているように思える。が、もしかしたらそれらを遥かに凌駕する強い情熱を持っていたのかもしれない。それは極めて冷たい情熱で、勘違いしがちだが決して犯罪に対する情熱ではない。彼にとって、犯罪とはどうやら手段であって目的ではないようなのだ。では、人を殺すという手段を用いてまで達成すべきジャックの目的とは何なのか?それは、おそらく芸術なのだ。だから、遺体は彼にとってゴミではなく、それこそが彼のアートを完成させるのに必要なパーツなのだ。だから彼は、殺人が目的であれば行うであろう、遺体を燃やしたりあるいは酸で溶解したりはせず、ちゃんと(?)冷凍保存しているのだ。
 それにしても、こういうキャラクターを創り上げるとは、ラース・フォン・トリアーは天才なのか、それとも人格破綻者なのか。もし天才だとすれば、よく言われる「天才と○○は紙一重」で、その紙一重向こうの領域まで足を踏み入れてしまっているのかもしれない。いずれにしても、ジャックもそしてラース・フォン・トリアーという人物も、共に絶対に友人にはしたくないタイプであることだけは確かだ(笑)。ちなみに、苦労して入手したフルメタルジャケットの弾、どうせやるなら徹底的にってことで、使うところまで描いて欲しかった。